「みーちゃーん!」


ブロロロという音とともに、そんな声が近付いてきた。

ワゴンとは逆方向を振り返ると、花屋のスクーターに乗ったニコニコ顔の陽介がやってくる。

白馬ならぬ、白いスクーターに乗った王子様のお出ましだ。なんだか微笑ましくて笑っちゃう。


「やほー陽介。配達?」

「そ、豪邸に住む熟女の奥サマにね」


マシロの手前で止まった陽介は、あまり必要ない情報を出し、何やらエプロンのポケットの中をまさぐっている。


「そしたらこれもらっちゃったから、みーちゃんにもあげる」


取り出した何かがぽいっと投げられ、反射的に手を出して受け取った。

手の平に収まったものは、透明な袋に入った、手作りっぽい紅葉の形のクッキー。

……うん、目に浮かぶわ。マダムに息子のように可愛がられる陽介の姿が。


「おばちゃんに餌付けされたのね」

「違うし! 美魔女さんだったし!」


真顔で言う私に、陽介は口を尖らせる。つっこむ所はそこなのか。

相変わらずからかうのが面白くてクスッと笑っていると、彼は気だるげにため息を吐き出す。


「みーちゃんにとって、僕って何なんだろな……」


突然そんなことを言う陽介を、私はキョトンとして見つめる。