「帰りに柏さんのお団子買ってきてくれたら嬉しいんだけどなーなんて」

「ほんとほんと」


ビニール袋を補充しながら言う阿部さんの呑気な一言に、私も頷く。

お父さんは出掛けると、帰りにちょっとしたお茶菓子を買ってきてくれることがある。

柏屋はパートさんに大人気だ。もちろん私も、お父さんも好きなのだけど。


「秋限定の栗あん、もう出たんじゃないですか?」

「あーあれ美味しいのよねぇ! どうしよう、帰り買っていこうかな」


口元に手をあてて真剣に考える阿部さんに、私は笑ってしまった。

こんなたわいない会話をしていると、本当に平和だと思う。

悪く言えば刺激がないってことなのだろうけど、私はぬるま湯に浸かっているような日々が心地良いから、これでいいんだ。


私はレジから離れ、お店を出てすぐのところにあるワゴンのもとへ向かう。

値下げされた商品が適当に入れられているそこに、真っ赤な紙に白い字で“お買い得品”と書かれた、目立つPOPを貼り付けた。

さっきお父さんに“新しいPOPがあるから代えといてくれ”って言われてたのよね。なんとも色気がないけど、まぁウチらしくていいか。

うろこ雲が広がる秋空の下、あまり減らないワゴンの中身を見てから、店の中へ戻ろうとした時。