がたん、と隣のサラリーマンが席を立って、菜摘は我に返った。

慌てて、緩んだ視界で周囲を見渡す。

しかし、店の外には変わらない喧騒、店の中には変わらない静かな空気。

先から何も変わっていない。
隣にいたサラリーマンの分の空間が、ぽかりと口を開けているだけだった。



それでも菜摘は、自分のいる場所を見失いそうだった。

二つの世界に片腕ずつを掴まれて、体がバラバラになってしまいそうだった。

ふわふわと脳味噌が飛んでいくような、地に足の着かぬような感覚に捕らわれている。

それでも、自分を繋ぎ留めようと踏ん張る気力すら、今の菜摘にはない気がした。

氷で薄まったカフェラテを、一口すする。

情けなくなるくらい、味気ない。



はあっと大きく息をつく。

体の中の浮ついた澱みを押し出すように、菜摘は席を立った。