「藤島」


「……え?」


「――あー、翔ちゃあん」




そのとき名前を呼ばれて、ふと振り返ってしまったのが運の尽き。


翔くんがいつもと同じ無表情で私を見ていて、川端さんが弾んだ声を上げた。




「……なに、藤島、幽霊でも見たかのような顔してるけど」


「翔くんが幽霊になってくれたらどれほどいいかって思ってる」


「死ねって意味じゃん」




微妙に笑った翔くんは、私達との距離を詰めようと、こちらに歩いてくる。


人通りの多い廊下はガヤガヤしていてうるさく、声を聞き取りづらいからだ。


来んな来んな来んな来んな来んな……! と念じているうちにあっという間に真正面に立たれてしまい、ちょっとどころかすごい気まずい。




「ほら見てー、あーちん。翔ちゃんの猫耳、可愛いでしょーっ!」




何故か得意げな川端さんが言うから、翔くんと目が合わないように注意しながらさっと彼を見た。


昨日と同じ、手が抜かれたコスプレ。可愛いかどうかは別として、ファンの女子にはたまらんのだろうなと思う。この人私を好きみたいだけどね。ごめんね女子のみなさん。