でも今の雛乃は、違う。
昔からずっと同じ、俺の大好きだった笑顔だ。
「ユウ、大好きだよ」
「俺も、雛乃のこと、好きだよ」
「ありがとうユウ」
「…ところで雛乃、こっち来いよ。
そっちにいると、危ないだろ」
俺はふっと微笑んで、雛乃へと手を伸ばした。
だけど雛乃は笑むのをやめ、首をゆっくりと横へ振った。
「雛乃……?」
「……ユウ」
「何だ?」
「……ありがとう、大好き、だよ…」
雛乃が微笑んだ瞬間、ゆっくりと雛乃の体が、斜めへ傾いていく。
背中はもう、地面と垂直だ。
「雛乃ッ!!」
俺は思い切り叫んで、柵へ身を乗り出した。
そしてギリギリの所で、雛乃の細い腕を、自分の手に収めた。