俺らの前には かなりの量の男達
一斉に殴り合いが始まった
「こんな…っ所で、諦める訳にはいかねぇんだよ…ッ」
夢中で殴り続けていると
背後から怒声が響いた
それは 少し前まで毎日聴いていた声
「…誰の許可があってこんな事してんだよ。」
でも今は
誰もが身震いする様な 酷く落ち着いた声
「…っ!!」
反射的に振り向く
その場にいる誰もが注目する先に立つのは
1人の少女
「深、紗…」
小さく名を呼ぶと
彼女は悲しげに一瞬微笑んだ様な気がした
「迎えに来た」
「迎え?…そんなの呼んだ覚えはない」
「深紗!」
誰もが殴り合いをやめ
俺達2人の会話をただ黙って聴いている
「もう…届かないのかよ、俺には」
「違うよ湊夜‥‥元から違う世界の人間なの」
「じゃあなんで‥‥何でそんなに辛そうに笑うんだよ!!」
俺の言葉に深紗は
更に 辛そうに顔を歪めた
「私は‥‥湊夜に甘えてる訳にはいかない」
「‥‥っ」
「私は、この族を統括する者として、やらなきゃいけない事が沢山あるの」
そう 言い残すと
深紗は背を向けた
「‥‥連れ出せ」
周りの男達が俺達を捕らえる
そして 建物から引き摺りだそうとした
その時
「深紗‥‥もう我慢するな」
静かに 深紗の隣の男が口を開いた
「來希、我慢なんてしてないよ‥‥私」
「俺がどんだけお前を見てきたと思ってる?」
「‥‥っでも、!!」
その男は深紗を引き寄せると
抱き締めた
俺は それを見ているしかない
「來希‥‥私、これでいいんだよ!!」
「違う。お前はもう何も背負わなくていいんだよ」
「じゃあうちはどうなるの?皆バラバラになって‥‥そんなの駄目だよ!!」
男の胸で泣きじゃくる深紗
族の奴らは 初めて見る長の涙に
戸惑っているようだ
「深紗」
「‥‥っ」
「大事なのは自分の気持ちだ‥‥今お前にとって大事な人は、誰だ?1番想ってるのは…誰だ?」