しばらく深呼吸を繰り返していると
少し 落ち着く事が出来た


そんな私の隣に腰掛けていた湊夜は
そっとペットボトルを差し出す


「少し、落ち着いたか?」


「うん‥‥ごめんね、‥‥__」

ペットボトルの中の水を少し口に流し込むと
カラカラだった喉が潤いを取り戻した


____見ていたのは 忌わしい記憶

何度忘れたいと願っても
私の頭から 離れる事は無かった

残酷な あの日の事だった


「もう大丈夫、ありがとね湊夜!」


呼吸が落ち着いた所で
私はわざと明るく振る舞って見せる


一瞬 何か言いたげな表情を見せた湊夜
怖くなった私はもっと笑って見せた


「無理すんなよ、深紗。俺はいつも傍にいる」


そんな私に優しくそう言い残す
湊夜は部屋を出て行った



誰も居なくなった部屋で
私は力なく ベッドに倒れて天井を見つめる


ふっと手を伸ばしてみた
その手は当然 見つめる其処に 届く筈もない


バタッと腕を下ろせば
自分の力無さを痛感した気がした


…忘れちゃいけない。
私は、 護られていい様な立派な人間じゃない。


「…__っ…」


久しぶりに口にした “その人”の名前


その声は
独りぼっちになった部屋に


小さく広がって
__消えていった。