その時。



カツン。


なんだか聞き覚えのある硬い音が鼓膜を震わせた。


ガラスか、大理石か何かを蹴ってぶつかる、革靴のおと…。


ここに来たことはないはず。


だからこんなばかでかい屋敷に知り合いなんていないはず。


なのにわたしはこの音を知ってる。


すごく懐かしく感じるのはなぜ?


誰かの、右側の階段へ通じる道へのステップを踏む、だるそうな革靴の音。

どんどん近くなる。


ここにくる。