「せんぱーい!」



放課後の美術室。



空は闇に包まれ、窓が鏡と化していた。



他の部員は既に帰ってしまっていて、冷たさも忘れ一人で筆を洗っていると、明るい声が耳を劈いた。



「あっ、京香!」



藤原京香。わたしの後輩。



京香の部活はテニス部なんだけど、中学が一緒だったから仲はすごく良い。



薄いピンクに染められたパーマのてっぺんには、デニム生地のうさ耳モチーフのカチュームがぴょこんと覗いている。



ナチュラルメイクの下の顔は、メイクする必要すら感じられない程の整いよう。



口紅はつけないんだって。彼氏とチューできなくなるから。



京香に彼氏は居ないんだけどね…。



告白はたくさんされるけど、好きじゃないから断ってるみたい。



クリーム色のカーディガンの袖を折って、肘の手間までが見えている。



春休みにしていたネイルははがしていた。



どうやらテニスに支障が出るらしい。