「あの人怒らせると、厄介だから。」
厄介?
まるで、〝兄さん〟とやらを鬱陶しいがってるような口ぶりだな……。
そうは思ったけど、口には出さなかった。
「着いたよ。」
「ここ?」
松江の後に続いて、辿り着いたのは。
一見、どこにでもあるような普通の一軒家。
「俺と兄さん、2人暮らしだから気にせず上がって。」
番号式ロックを解除した松江は、ドアを開けては僕が入るのを待つ。
がらにもなく緊張するのは。
もしかすればこの中に、倉橋がいるかもしれないからか。
「……お邪魔します。」
1口、息を呑んで。
〝松江大地〟
〝松江潤平〟
表札にはそう彫られたこの家へと。
1歩、踏み入れた。