愛知は「死ね」とかつぶやいて、自分の席に腰掛けた。

 すると、清香が、自分の席から筆箱をとってきて、何をするかと思えば、それで愛知を叩いた。

 がしっと音がして、愛知が筆箱を奪い取って、その筆箱で清香の腹を突いた。

 ドスッてきこえて、清香が座り込んだ。

 ドラマ気取りで女子が清香に駆け寄る。

「なんで?」

「かわいそうじゃん」

「愛知サイテー」

 それを見て、僕の隣の席の久田という女子が、

「愛知って絶対女子と仲良くしないじゃん?」

 と言い出した。

 久田はいつも静かで、一匹狼派の女子。

「女ぎら――」

 久田が「い」を言い終わらないうちに、

「あったりまえじゃコラ」

 と愛知が怒鳴った。

「異性としての女なんいらん」

 久田が無言で肩をすくめた。

 こういうしぐさが似合うのが久田だと思った。

「ホモになれば?」

 さらりと久田がつぶやいた。

 おそろしいことをいう奴だと思った。

「当たり前や」

 愛知がガタンと椅子に座りなおした。

「・・・は?」

 僕ら3人と久田の声が重なった。

「俺今まで女好きんなったことなんないわ。全部オトコ!」

 ・・・この空間だけ静かになる。

 唖然とした空気がだんだん気まずい空気になってきた。