「……だから。俺を貸してあげる、って言ってんの」


耳朶に触れた甘い声に、なんだか背筋がぞくっとした。


唇が耳に触れるか触れないかの距離で囁かれたその言葉に、胸がキュッと鳴いて……、ん?



「俺を貸してあげる、って何?」

甘い声には悔しいことにキュンとしたけど、肝心の言葉の意味にひっかかって、私は眉をひそめて顔を上げた。


すると竹内は、至近距離のまま、にっこりと笑う。


「だからさ。架空の彼氏はやめて、俺と付き合ってることにしなよ」

「……は?」


思わず素のまま出てきた間抜けな反応に、竹内はクスッと笑みをこぼした。


「そりゃあ、完全に架空人物じゃ彼氏いるフリなんて無理があるじゃん?だから、それならいっそ、俺と付き合ってることにしたら楽なんじゃないかなって」


あー、なるほどね。

たしかに想像だけの架空人物だと上手く答えられない美夏の質問にも、竹内を仮定すればそれなりにつじつまの合う答えを返せるかもしれない。