2年前のことだ。

中学生にもうすぐなるというのに、林桃子
は、中学準備なんかせず、ずっとベッドの中で、ごろごろとケータイをつついていた。

YouTubeをあさりまくって、好きな動画を朝から浴びるように見まくる。
お腹がすいたら、冷蔵庫を開けて、昨日の夜飯の残り(今日は餃子)を、手づかみで(しかも醤油無しで)食べる。
ついでに、横にある、無調整豆乳をらっぱ飲み。
お腹と喉が潤って、眠くなったら、ソファーに寝そべって、寝る。
目が覚めたら、部屋に戻って、ベッドに入り、また動画を見まくる。 

、、そんな、悪循環のサイクルを、春休み中ずっと送っていた。
そんな生活のせいで、顔はむくみ、手足の間接部分は、アトピーで、いつも以上に赤くただれ、おまけに、自慢の黒髪のキューティクルは、毎日の寝癖のせいで、艶を忘れてしまっていた。

なので、こんな生活はいけん、、と内心、動画見まくりながら思っていたが、

(でも、外に出るわけでもないし?
楽しいからええじゃん。)

という悪魔の誘惑に負けてしまってずっとこの調子だった。









ある日、いつものように動画を見ていたら、急にCMが宣伝のために入ってきた。

化粧品のCMだった。

桃子は、何なんだよと思いつつ、さっさとスキップをしようとした。

だが、CMが始まった途端、スキップしようとしていた指が止まった。




+*++**+*+***+***+**+**++*****+****+++*
             



~ランウェイの会場のようなセットに、

黒髪の綺麗な女性。

セクシー系のドレスをまとっている。

身長は、170cmくらいだろうか。

手足が長い。スタイル抜群だ。


『まるで、猫のような瞳に。』


瞳が、画面に大きく映る。

少し灰色がかかった、切れ長の涼やか
て、それでいてグラマラスな目。

それに、猫のシルエットが入っているモノクロのマスカラが、まつげを撫でる。


『New,CAT MASUKARA』


顔にかかった髪をさりげなく耳にかける。

それから、挑発するような目線で、腰に手を当ててポージング。


『さぁ、出かけましょ。』


がらりと背景が夜の町へと変わる。

と、同時に彼女も、くるりと回る。  

そして、回りきった後、

彼女は黒猫へと変身した。

それから画面からすぅーっと、

吸い込まれるようにして





・・・消えていったーーー。~



      











(す、すげ、、、、)

普段なら、興味のない高そうな化粧品のCMなのに、始まった途端、桃子は引き込まれてしまった。時が、まるで止まってしまったようだ。





CMが終わると、すぐさま、YouTubeを閉じて、Googleを開き、桃子は、さっきのCMに出ていたモデルのことを調べた。












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(沙織、、沙織ちゃんか、、、)

てっきり、ケイティとか、リアーナとか、そういう外国人のような名前だと思っていた桃子は拍子抜けした。

「沙織ちゃん、まだ17なんか、、。」

17なのに、大人顔負けのスタイル。
そして、有名な芸術家に書いてもらったような、美しい顔。








私なんかとは天地の差だ。もちろん。


(いいな、、、)



自分もこんなふうに綺麗だったらな。
こんなふうにきれいだったら、、、

ガララ
「あら、まだ寝そべってんの?」


後ろを振り向くと母がいた。

どうやら、洗濯物を置きに来てくれたようだった。

「あんた、そろそろ起き上がって勉強
もしたら?」

「、、ママ、、。」

「ん?」

「この人めっちゃ綺麗だよね、、、。」

桃子は自分のケータイを、母に向けた。

「え、どれどれ、、あ、本当だ」

「あたしもこんな風になりたかったな、、」

「え?」

「いや、あたしもこーなりたかったなって」

「え、なに桃子、モデルになりたいの?」

「、、、急に興味持って」

母は私の横に座って腕を組んだ。
「うーん、モデルか、、、
大変よ、本当。
体とか、肌とか気をつけなきゃいけないし、
まず第一に、素質がなきゃだめだからねぇ。
医者になるには、
勉強したら資格はとれるけど、
モデルの場合は、いくら、勉強しても素質が、
例えば顔くしゃくしゃのブチャイクだったら、意味ないからねぇ」

「、、、あたし、素質あるかな」

「え?」

「素質、あたしあるかな?」

急に真剣な顔になった桃子を見て、母は少し驚いた顔をしたが、またすぐ笑顔にもどって、
「、、、もちろん。
あんたは、あたしに似て、美人だからね」
と答えた。

「、、、ありがと」

「さ、ご飯の準備、と」

母は桃子のへやをでた。






















たった15秒のCM。
高そうで、興味ない化粧品のCM。


、、、、だったはずだった。
  









あたしも、
沙織ちゃんみたいに、キラキラした世界で、かっこよく生きたい。
  

、、、モデルになりたい。






でも、あたしなんかがなれるだろうか。

母は素質が必要といっていた。





あたしにあるのだろうか、、、。

あたしにあるのは、無駄に高い身長と、かわいくないぶさいくな顔。
そして、アトピー。













、、、どうなんだろうか。