「なぁ、海里」
そしてついに沈黙は破られ、蒼ちゃんの落ち着いた声が耳に響いた。
ただ返事を返すだけでいい。
余計なことは言わないで。
そう、思うのにーーー。
「蒼ちゃんも大人だから好きでもない人とキスができるの?それとも神崎先生のこと好きになっちゃった?」
不機嫌そうに首を傾げる蒼ちゃんの顔を見てハッとしたがもう遅い。
取り消したい言葉でも言ってしまったらどうにもできなくて、
「何バカなことを言ってるんだ。神崎が勝手に…………俺が望んだわけじゃない」
蒼ちゃんを困らせるだけだった。
そんな真実もわたしには届かず、風が吹いたように耳から吹き抜けていった。
「蒼ちゃんのバカ!変態! 」
叫んだって意味ないのに。
怒ったって過去には戻れないのに。
行き場をなくしたこの怒りと哀しみを蒼ちゃんにぶつけてしまうわたしは、やっぱりまだまだ子どもなんだと痛感した。