「辻宮はただの生徒だ」


せっかくフォローしてくれているというのに、わたしは自分のことしか考えられていない。

ただひたすらに、行き場のない怒りを目の前の人にぶつけていた。


「なんでキスなんかしてたの……」



涙で視界がよく見えない。

流さないようにと堪えるだけで精一杯だった。


「これは遊びのキスよ。あ、そ、び」


語尾にハートが付きそうな言い方に無性に腹がたった。


遊びってなに?

遊びでキスなんかできるの?


「桐生先生かっこいいからちょっと誘惑してみた。ただそれだけよ」


「神崎先生………いつもと人が違う」


まるで数年ぶりに蒼ちゃんと会ったあの日を見ているみたい。

この人は誰?


「いつもあんなテンションでいるの疲れるのよねぇ。生徒たちにこっちのあたしは刺激が強すぎるじゃない?合わせてやってんのよ」


そう言うと、神崎先生は軽く巻かれた自分の髪をふわりと揺らした。