電話を切ってから一は指定したホテルに向かった。
向かう途中、少しだけデパート内をうろうろし、スニーカーや時計を物色する。

クラスメイトが誇らしげに最新モデルのスニーカーやなんかを履いているのを見ると羨ましくなるが、今の一にはとても手に入る代物ではなかった。

見ているとどんどん欲しくなるので、一は地下に移動する。きっと樹里が来る頃にはお腹が空く時間になるはずだ。
レストランなんて、周りの目が気になって入れもしないだろうから何か適当に買っていくのもいいかもしれない。

弟には冷蔵庫の中に余ったサラダや、冷凍食品があったはずだから、今日だけそれで我慢してもらって……。

そう考えながら一は再び公衆電話を探して今度は家に電話をかけた。
弟に遅くなることを伝えると弟は「ふーん」と薄い反応を見せただけだった。

「ごめんな」

「いいよ別に。兄ちゃん僕のために色々我慢してるし、たまには遊んできなよ」

大人びた弟の言葉に驚いた。それより何より見抜かれていたことに少し動揺した。

どこかで弟さえいなければ、と思っていた自分の浅ましさに気付かれていた気がして、一はすぐにそれを否定しようとした。