二人で言い合いながら絶望する。

「私、もっと遅く生まれて来たらよかった」

「俺も、もっと早く生まれてきてあげたかった。……でもさ、歳が近かったら案外お互い仲良くなることもなかったりして」

一は胡座をかいた足の隙間に樹里を座らせて笑った。一の匂いがする。
ひなたぼっこをしている時のような香りが樹里を落ち着かせる。

「とにかく、土曜日はなるべく会おう。人目につかないように会うのは難しいと思うけど、親父のアパートの周りには先生のことを知ってる人間はいないし。こっちで会うのは危険だけど俺もなんとかする」

「ううん。いいよ、私が会いに行く」

そう言って最後に一度だけゆっくりと唇を重ねて樹里と一は別れた。
別にこれが永遠の別れではない。
これからも会える。何も変わらない。そう信じて樹里は一を見送った。

樹里は一が去っていくのを二階の廊下の窓から見つめていた。
その姿が完全に見えなくなっても樹里はじっと外を見つめた。

「樹里……」

ガチャリと樹里の部屋の隣の扉が開いてテツが顔を出した。樹里はテツを振り返って「何?」と聞き返す。

テツは不満げな顔をしていた。

「何、じゃないよ。何だよ今の。あいつ、生徒だろ?どう見ても」

「……うん。転校するんだって」

「それで何で樹里のところへわざわざくんの?」

テツは完璧に疑っていた。いつも適当なテツがこんな顔をするのはめったにない。