途端、何も知らずに駄々っ子みたいに一を責めていた自分が恥ずかしくなった。

ベッドからずり落ちるようにして床に座るとそのまま一と視線をあわす。
黒い眼が濡れていた。

「ハジメくん」

愛おしい名を呼ぶ。

「先生、いつか必ず、言うから。ちゃんと大人になって誰にも文句言わせない人間になる」

「うん。待ってる」

「もうお金の貸し借りとか関係なく、ただ一緒にいたいから」

そう言って一は白い封筒をデニムの尻ポケットから取り出すと樹里に握らせた。厚みと形でそれが何なのかすぐにわかった。

封筒を縦にして中を覗くと綺麗に揃えて入れられた札束が見えた。

「どうしたの、これ」

「借りた。正確には親父が祖父ちゃんに借りてくれた。親父は結婚するとき勘当同然で家出たから俺、こないだ初めて祖父ちゃんに会ったんだけど」

「そ、なんだ」

「高校入ったら死ぬ気でバイトと勉強頑張んないと」

一は照れたように笑うとすっきりとしたような、晴々とした顔を見せた。

「先生さ、相沢と尾垣には気をつけろよな。俺がいないからって隙見せてつけこまれたりなんかしたら許さないから」

「そっちこそ。転校先で女の子と喋らないでよね」

「んな無茶苦茶な」