ぼやけた瞳が熱を持ったように熱かった。

頭がくらくらする。

「一人にさせない」

今しようとしていることと真逆なことを言うなと怒りたいのに、口が動いてくれなかった。

「こんな脆い人間を一人に出来るはずないだろ」

心なしか一の瞳が潤んでいた。

「放っておいたらまた死のうとすんのに……。俺が大人だったら先生のこと一緒に連れてきたいくらい、」

そこで言葉が途切れ、一が樹里を抱きしめて来た。
一の熱い吐息が髪にかかり、湿っぽい空気が樹里の首筋を包み込む。

随分と長い間一はそのまま動かなかった。




そっと一の肩に手を回し、右手で背中をさする。
優しく撫でながら抱きしめた。

「ハジメくん。ごめん。泣かないで」

すん、と一が鼻を啜った。はあっと堪えていた息を漏らした一は微かに震えていた。

「……こんなの、言い訳だけど。親父が手術するんだ、脳腫瘍の。親父のこと恨んでたはずなのに、俺、気付いたらついていくことを決めてた」

鼻のつまったようなくぐもった声で一は続ける。

「先生から離れないって言ったのは嘘じゃないのに。どうして全部を大切に出来ないんだろう」

一の悲しみが触れている部分から伝染してくるようだった。