テツはそれを全てわかっていて、でもだからといって何かをするわけでもなく、樹里に何かと構ってくる。

そのままうとうとしていると家のチャイムが鳴った。

テツが「誰だろ」と言って立ち上がる。

樹里は瞳を閉じて自然と耳に入ってくる音をBGM代わりに半分眠りの世界へ入り込んだ。

しばらくしてテツが戻って来た。
傍に座るのが気配でわかる。

大きな男の手が樹里の頭を撫でた。

変だな、と思ったのはそれから間もなくしてだった。樹里のそれを撫でる手の動きがただのスキンシップにしてはやけに熱がこもっていた。

愛しい恋人に触れるような撫で方。

「テツ……?」

ゴツンと、テツの額が樹里の頭にぶつかる。

「……先生」

その声に樹里は目を開けた。漆黒の瞳が至近距離で樹里を見つめていた。

テツだと思い込んでいたはずの手は目を開いた途端、一のものに変わる。