「…なに?」

「あ、いや…、その…」

突然のことに驚いて停止してしまう。

「ん?」

不思議そうに首を傾げる動作もあどけないというか、計算されたような美しさ。

いや、計算されてないからこそ魅力が引き出されるんだろうが。

いやいや、そんなことじゃなくて。

「えっと、その…、ち、蝶が…」

「蝶?」

彼女は不思議そうに聞き返すと、さらさらの黒髪ロングヘアーに触れた。

「いないじゃん」

そのときにはすでに蝶は飛び立っていた後で。

「や、さっきまでは…」

「ふ~ん、そう。ありがと」

彼女はもうそのことには興味がないようでいつのまにか本を取りだし読み初めていた。

彼女にお礼言われた…!

いやいや、そんなことはどうでもいい。

「あの…」

「うん?」

「次…、移動教室ですよ…?」

何故か彼女の前では緊張して敬語になってしまう俺。

こんなの俺らしくない。

いつもの俺を取り戻せ、自分!

「へぇ~、だから?」

「え?」

「早く行ったほうがいいんじゃない?ま・じ・め君♪」

いたずらっ子のように笑う彼女。

「……ッ!?」

どうも俺は彼女といると調子が狂うみたいだ。

「は、はいっ!!」

あわてて飛び出していった。

1時間後、教室に戻ってみると、彼女はいなかった。

彼女のいたところにはいつか感じたように日の光に照らされて寂しげな机と椅子だけが残った。