「朔…」
いきなり現れて、私の手を掴む朔(さく)。
私より年上で大人なはずなのに、時折子供っぽいところを見せる。
きっと私が逃げないように見張りでもしにきたんだろう。彼だけじゃ頼りないから。
みんな、私を子供扱いする。
歳からすれば確かに劣っているかもしれないけど、勝っている面だってある。
ただの悪あがきでしかないけど。こんな言い訳。
「…わかりました。お願いします朔さん。
私はこのまま報告に行きますので」
「あいよ」
まるで自分の娘を預けるかのように深く例をして消えていった。
親と錯覚してしまうような言動が彼には多々あって、ついたあだ名は"おかん“。
本人は知らないだろうけど、隠れてみんなに親しまれているようだ。
「相変わらずだな、あいつ」
彼が去っていった方を見て、呆れているのか同情しているのか、微かに微笑んだ朔。
朔が変わり者だと言うのも可笑しいことだと思うけど。
「ほら行くぞ。今約束したからな、連れて行くって。俺は約束を守る男だ」
「そんなこと初めて聞いた。自分の利益になることしか引き受けないものかと思っていたけど」
どや顔の朔に呆れる。
元々前向きっていうことは知っていたけど、ここまで図太い神経の持ち主だとは。
悪口を言われても聞こえないふりをしたり、都合の悪いことを聞き流したり。
聞いていなかった、っていう可能性もなくはないけど。