「少し前に、いじめを注意してくれた人がいるんですけど、それからは隠れていじめられちゃって‥」
後ろ向きの為、佐伯の表情はわからないが、一筋の涙がふと見える。

「でも、さっき助けてくれたこと‥本当に感謝してるんです」
泣きながらも無邪気に笑うその姿は、実に痛々しいが、あたしには指で涙を拭ってやることしか出来ない。

さりげなく背中をさすってやると、佐伯はストッパーが外れたように涙が溢れだした。

相当ストレスがあったのだろう。

「飛鳥‥ちゃん‥あり‥がとう‥!」
途切れ途切れで感謝の言葉を述べる佐伯。



‥ん?
あたし、佐伯に名前教えたっけ。


「名前‥」
「あ、ごめんなさいっ。気安くちゃん付けしちゃって‥」
「いや、それは別に良いけど、お前に名前教えたか?」

泣き顔とは打って変わり、佐伯はきょとんとした表情をする。

「あ、そっか。飛鳥ちゃんいつも教室に来ないから‥」
佐伯は独り言をぶつぶつ呟き、あたしの前に直立した。

「私、飛鳥ちゃんと同じクラスなんですよ!」
「へぇ」

どーりで名前知ってるわけだ。

クラスメイトの名前すらちゃんと覚えてないあたしって‥。

いや、それは考えないでおこう。


「泣きやんだならあたしは屋上に戻る」
「あ‥」
「もう授業始まってるだろう? 悪いな、サボらせちゃって」

階段を上がろうとするが、ブレザーの裾を掴まれ、ヘタに身動きが出来ない。

「まだ何か?」
「私もついて行きたいっていったら、迷惑‥かな?」

一瞬耳を疑う。

「本気で言ってんの?」
「はい!」

どうやら聞き間違いではないらしい。

「別にいてもつまらないと思うが‥」
「いいです! 飛鳥ちゃんに話しかけますから」


まったく‥妙な奴を助けたな。


「好きにしろ」