なんていえば、渚が笑ってくれるんだろう。


「……きっと、届くよ」


これだけ、思ってきたんだもん。

相川先輩に届かないわけがない。


「成功するなんて保障はなけどさ、大丈夫なんて保障はなけどさ。

届けようよ。渚の想い」


失恋するかもしれない。

泣いちゃうかもしれない。

このままうちに秘めておいたほうがよかったと後悔するかもしれない。

だけど、


「きっと、今いわないほうが、絶対に後悔する」


恋愛はタイミングがすべてだと、以前紗英が言っていた。

紗英のいうことの大半は聞き流していた私だが、そこだけは納得した。

人が人を好きになるということは、とても儚いものだと思う。

だからこそ、きっと人はそれを大切にするんだと思う。


「……優愛にはわかんないよ。きっと。自分からこの関係を壊す怖さなんて。優愛にはわかんない」


そういって振り返ってこちらを向いた渚の顔は、真剣で少し……怖かった。


「カズくんとは小さいころから一緒にいたの。まわりと少し距離を置かれていた私にカズくんはいつも何の偏見もなく話しかけてくれた。それがうれしかった。それがいつの間にか恋になってた。気づいた時にはもう遅くて、カズくんの周りにはかわいい女の子がいつもいた。私の出る幕なんてもうなかった」


そういった、渚の目からは一滴の涙が流れ落ちた。

マスカラのせいで、それは黒い涙だった。

だけど、正直きれいだと思った。

恋している女の子そのものだった。


「カズくんが私を好きじゃない。そんなことはもうわかってるの。

私は、カズくんにもうこれ以上迷惑なんかかけたくないのっ!」


そういって、渚は私の横を通り過ぎて、勢いよく部屋を出て行った。

渚の腕をつかんで止めようとしたが、つかみ損ねてしまった。