その時、また幼稚園の頃に、王子様役の真吾にキスをされて泣いた時の事を思い出した。

嫌な思い出…………?

劇が終わったあと、和樹は櫻の代わりに真吾を怒ってくれた。

そして卒園式の帰りに、和樹は指輪をくれた。

「この指輪が入るくらい大きくなるまで大切に持ってるね?」

「そうだね?櫻ちゃんが大きくなった時にこの指輪をしてね?」

二人はこんな約束を交わしていた。

今でも櫻の机の引き出しに、大切にしまってあるおもちゃの指輪の思い出が、頭をよぎる。

和樹のお陰で素敵な思い出なのだが、昔の記憶なので、印象の強い方が先に思い返されたのだ。

よく考えてみると、嫌な思い出なんかじゃなかったんだ…………

今ならあのおもちゃの指輪が嵌められるかも…………

でも、あの約束はもう無効なんだよね…………

和樹君は彼女がいるから、もう忘れなきゃダメなんだ………

健一先輩をもっと好きになれば、忘れられるのかな…………