翌日、私は思い足を引きずりながら学校へ向かった。

いつもより遅く、遅刻ギリギリの時間につくように家を出た。
そうすれば、昨日のようにみんなからの言いたい放題のヤジが飛ばないと思ったから。

茜:今日は学校に行きます。

なぜか使った敬語に私は自分でもおかしく笑ってしまった。
菜々の返信は珍しく遅く、私は不安が1歩1歩歩くたびに増えていくように感じた。もし、菜々が休みだったら私は確実に1人。


菜々:了解だよーん!


菜々はそんな事を全く考えず遅れて返信が来た。
そういえば今はまだ先生が教室に入っていない自由時間。
友達と喋っていたのか、返信が遅れたのだろう。

今は、頭を柔軟に使っていこう・・・。


8:30に私は学校の校門を通り抜けた。
いつも生徒指導の先生が立っているが今日は運よくたっていないようだ。
でも、玄関で・・・バッタリ。

「お・・・五十嵐だな」
「あ・・・お、おはようございます」

私は先生と目を合わせれなかった。
これは恥ずかしい・・・。余裕だと思った私が恥ずかしい。

「よく、来たな。えらいぞ」
「・・・へ?」
「教室、入りにくいだろ?なんなら、俺も一緒に行こうか。」
「え・・・あ、いや・・・ありがとうございます。でも、大丈夫です」
「そうか・・・。今日だけだからな。見逃すのは」
「はい」

先生の知っているのは昨日の出来事だろう。
・・・先生の心遣いには心が温まった。
でも、同時にイジメられているという現実を改めて自覚してしまった瞬間。

玄関で靴を履き替え右に曲がり、トイレをすぎ階段をすぎると
1年1組 というクラスの表札が見える。

恐怖という鼓動が速くなっているのが自分でもわかる。
こんな時は、大好きな空の画像を・・・

「茜?」

この声は・・・
「茜、おはよ!」

小さい声で、私に話しかける少年の名前は 嵐 だ。
昨日のことなんてまるでなかったかのように・・・。

「おはよ。」

目を合わせようとしてくる嵐に私は合わせないように反対側をみる。

「・・・来たんだね」
「あ、嵐。」

私はその言葉を言うために振り返った。

「私、彼氏できたから。」

嵐の表情が一瞬で曇る。
こんな簡単にひとの表情を変える言葉・・・。
言葉の内容、嵐の顔に驚きながらも私は絶対に顔を変えない。
冷めた目で嵐をみる。

「そう言うことで。・・・そ、アンタに守ってもらわなくてもいいってこと」

・・・あの言葉は嬉しかった。
実際に来てくれた時は本当に嬉しかった。
ネガティブにとらえてしまった私は、嵐から逃げることしかできない。
幼馴染との大切な中にヒビを入れ私はイジメられる教室1年1組へと入る。


「きりーつ」


ちょうど、朝礼が終わってしまった時刻だった事に私は驚いた。
朝礼から授業が始まるまでの時間は5分。
その5分があるという事は好き放題言われる時間を自ら作ってしまったことになる。

「茜!遅い!来ないのかと思ったし!」
「ご、ごめん」
「でも、来てくれてサンキューね」

本当に菜々は私を1人にする気がない事が分かった。
だから、菜々は私の大切な友達で菜々がイジメられた時私は絶対に菜々の近くにいること。

「・・・今朝、返信遅かったね」

私は、たいして気にしていなかったコトを会話として入れた。

「・・・うん、理由教えるよ。おいで」

私は手首をつかまれ菜々と走った。
2組を通り過ぎて行った先は1年3組。
山本くんと嵐の教室・・・。

「山本ー!来たよー」
「え!?あ!」
「春輝ー行ってこいよ!ヒューヒュー」

冷やかしの声があげられる中、私は顔を上げられなかった。
だってそこには嵐がいるから。

「お、おはよ。あ、茜」
「え!?アンタらもう下の名前で呼んでるわけ!?」
「いや、俺だけ!俺が勝手に呼んでる」

「おはよ・・・」

やっぱり、顔を上げることは出来ない。

「・・・昨日のこと、聞いたよ。大丈夫?」
「え・・・」

私は知られてしまった恥ずかしさに思わず顔をあげた。
山本くんよりも嵐の表情の方が気になったのは事実。
でも、そんな嵐は関係なしにノートを開いて何かを書いていた。
その姿に、私は本当に幼馴染をやめてしまったことに後悔した。

「俺は君の彼氏だからさ、茜が悩んでたら大木もそうだけど俺にも相談して」
「・・・あ、ありがとう」

あんまり慣れない男子との会話に私は言葉がつまってばかりだ。

「ところでさ~、山本は茜が初?」

菜々の質問に山本くんは目を泳がせる。

「違うんだね~ふーん。茜は初めての彼氏だよ」
「・・・そうなんだ・・・。」

元気がなくなった山本くんをみると少し距離が縮まったように感じた。
それは、私が元気がないからだと・・・。

「茜は・・・6人目の彼女」
「は!?多いな!お前」

6人?スゴ・・・。

「お、俺だって中学の頃告白されてその女子とは付き合ってたの!
 でも!茜が今までで1番好きだし!」

ヒューヒュー

冷やかされて変な距離感・・・とはこのことだろう。
言われたコッチも恥ずかしい。

「それって、言葉だけの信用ないよね」

温かい空気を変えるかのように1人の男子がいった。
・・・嵐だ。

「・・・なんだよ、森山」

山本くんは嵐が私の事スキって知らないんだろうな。

「いや、大木もうそろチャイムなるぞ」

菜々だけ?

「え?あ、うん。どもども?茜、行くよ・・・?」

菜々もさすがに戸惑いを隠せない様子だ。

「私は、授業に出ないよ。菜々だけいって?」
「・・・何するの?」

「屋上で大の字で寝てみたい!」

あれ?
この言葉言うのが初めてじゃないような気がする。

そうだ、嵐と昔話していた。
あれは・・・確かまだ小学生のころかな・・・。

屋上に向かいながら私は過去の楽しい時間を思い出す。

『嵐は、高校どこに行くの?』
『ん!?茜は、先の事聞くね!全然、考えてないな・・・茜わ?』
『へ!?えっと・・・屋上があるところ!入れるところ!
 茜ね、屋上で寝てみたいの!漫画にね、カッコイイ男の人が寝てたり、
 そこでラブシーンっていうのがあってね!茜の憧れなんだよ!』

すごい・・・結構覚えてるな・・・。

『ふーん、じゃあ俺は茜にソコで告白する!』
『コクハク?ってなぁに?』
『・・・漫画見てるなら、知ってるでしょ!まぁ、いいや!』

告白・・・か。その頃から・・・好きだったのかな・・・。

『えー!茜、気になる!』
『ん!?なぜに!?』
『ハハハハッ、嵐って驚くと ん!? って言うよね!変なのぉお』

・・・今は、言ってないな・・・。

『茜も、 へ って言うじゃん!変わんないよ。』
『へ!?・・・そ、そんなことないもん!』
『ほら、また言ったじゃん!』



懐かしい思い出が私の頭の中を横切る。
階段を上がって、気づけば屋上の扉をあけるだけ。

『ふーん、じゃあ俺は茜にソコで告白する!』

可愛い嵐が言ってくれた私にとっての初めての告白。
今、思い出すと無性に嵐に会いたい。
でも、嵐を引き離したのは・・・私だ。
嵐に合わせる顔なんてドコにもない。
守ってくれて・・・本当は証拠を作ってくれた嵐に私は・・・

怒ってしまって。

そう思っていると涙が頬に伝わる。
こんな時いつも『茜』と言ってくれたのは付き合ってる山本くんじゃなくて

嵐だった。

ガチャ

屋上の扉をあけると、青空が広がっていた。
雲がない・・・快晴だ。
目の端から端まで青いきれいな空が描かれている。
一番好きな景色なのに、心は今・・・一番悲しい・・・。

正直になれない私のこの思いは捨てるべきなのかな・・・。
山本くんのコトを好きになれない私は・・・

別れ・・・

ガチャ

扉が開いた。

「茜・・・さん!」
「や、山本くん」

しまった!鍵を閉めてなかった!
いや、過去は仕方がない!今はこの涙を・・・。

カチャ

山本くんは何も言わず、鍵を閉めた。
・・・信用してもいいんだよね。

優しい目でこちらを見ている山本くんに私は一瞬、錯覚した。

嵐?

違う、山本くんだよ・・・。分かってるけど・・・。

「大丈夫?やっぱり、つらいの?」

うん、つらい。すごくつらい・・・。
教室よりも私の存在自体を見ようとしてくれなくなった嵐が・・・。

「一緒に行こうか?」

山本くんが話しているのは紛れもなく、教室の事。
でも、そんなこと今はどうだっていい。
正直入れる。菜々がいるから。

「・・・いいよ、ありがと」

その言葉とは裏腹に私は自分が止められないモノ・・・涙を
止めることに必死だった。

「一緒にいるよ」

『それって、言葉だけの信用ないよね』

嵐の言う通りだよ。
全然、私・・・山本くんのこと信用してない。
今も・・・山本くんから逃げたいとも思ってる。

「山本くん・・・私ね・・・山本くんのコト好きじゃない。ごめんなさい」

山本くんの目は私ではなく上を向いた。

「・・・うん。」

これは、話し続けてもいいのかな。
沈黙がある・・・。

「・・・私、山本くんの優しさ・・・に甘えてたかもしれない。
 今だって、山本くんのコト信用できない。怖い。」
「・・・うん」

「教室は・・・もう、怖くないの。」

その言葉に山本くんは反応を見せた。
私の方を見て・・・


「何が、悲しいの?」

・・・悲しい。
怖いってあえて言ったのに山本くんは見破ってた。

「・・・好きな人に・・・無視されてること」

ボロボロと大粒の涙があふれてくる。

「・・・うん、別れよう」
「うっ、うっ・・・ごめんなさい・・・」

トイレに行くといって授業を抜け出してきた山本くんは、
少し他愛もない会話をしてから屋上から教室へといった。

いや、数十分は扉の向こう側にいた。
声が・・・聞こえた。

『別れたく・・・なかったよぉ・・・』

・・・そう思ってるコトに私は感謝して屋上の鍵

自分の心に鍵をかけた。