「茜!おはよ」

下駄箱の前で菜々は私のことを待っていた。

「おはよ。菜々」
「うむ!」

菜々は、私から話すことを待っているのか、喋っている話題が芸能人だったり漫画の話だった。私からこの話題をふれっていうの?菜々は・・・。
少しヒドイ気持ちもあるが私は教室について席に座って話そうと思った。

だけど机には見たくもない光景があった。
あの過去と同じ・・・。

机には、大好きな本がビルビリに破られ
置いていった教科書、ノートには「キモイ」などの文字が書かれ
机には、さすがにマジックではないがシャーペンなどで
「シネ!」「調子乗るな」
さらにイスにはボンドでくっつけたであろう画鋲がいくつかくっついていた。

「ね!?誰!?茜にこんなことしたの!?」

菜々は怒ってくれているけど私はあの過去と重なって声も出せない。

助けて・・・俺が守るって言ったじゃん!嵐・・・。

「そこの女がいい子ぶってモテるじゃん?キモイよね?そうやって告白されてい
 くのが茜ちゃんの夢だもんね?」
「は?茜の事を知らないくせに言ってんじゃねーよ」
「じゃあ、茜ちゃんはさどうして今声を出せないの?」

・・・もしかして、中学のころを知っている人?

「ウチの友達にさ茜ちゃんのコト知ってる子が数名いてさ中学のころを聞いたら
 中学の頃もそのキャラでイジメられてたんでしょ?アハハハハ!うける!」

「・・・茜、マジ?」

菜々のことにも私は応答できなかった。

「・・・別に、あたしは茜がイジメられてたっていうのは知らなかっただけだし
 全然気にしないよ?茜!」
「・・・菜々」

やっと出せた声はわずか2個の漢字。

「そうやって繰り返すの?高校でも」
「・・・」

ついに、菜々も黙ってしまった。
菜々に返す言葉なんてないもんね・・・しかたないよ



「茜、コレが女の見にくいヤキモチだよ」

「へ?」

「あんたらさ、自分がモテないからってそういうことするの?
 勉強してこの高校に入ったのにそういうことするの?」

菜々・・・

「菜々、もういいよ」
「あ、茜!そういうこと言ってたら・・・」
「私が・・・言葉を返す。」





「茜、俺が守るって言ったじゃん」





・・・この声は・・・嵐?

「イジメかーココでもあったんだ。見にくいね~
 イスはボンドか何かでくっついているみたいだしほっとこうかな
 机は仕方ないよ・・・俺が写真撮って証拠にする」

カシャ

「これで、茜がイジメられていたっていう証拠はできたね~
 そしたら・・・」

「やめてよ!!!!!!!!!!!」

・・・どうしてそんなことするの?
どうしてそんなこというの?
確かに今、私は彼女たちのターゲット。
でも、『茜がイジメられていたっていう証拠はできたね~』なんて言うの?

そんなの・・・最低だよ

「・・・菜々、また明日ね!バイバイ」
「あ、あかね!?」

重なってしまった悲しい過去と今。

だから告白なんていいものじゃない。
だから、男なんて信用ができない。
優しい目を向けられてもいつボロを出すかなんて知ったもんじゃない。

「五十嵐さん?」

そう言った山本くんの言葉にも私は返せず、家まで走る。
こうなったら山本くんの方が礼儀正しくていいのかもしれない。
一度は正義。ヒーロー。
でも、今の嵐は・・・私にとって



最低な人間。



守る?守ってないじゃん!
全然守ってないよ。
傷を深くしたのと同じだよ!!!

悔しい、悔しい・・・。
どうして、どうして嵐なの!?
どうしてあの言葉を言ったのが嵐なの?

私は気づいてたんだ。





嵐が好き



菜々に言われる前からいちいちドキってきていた自分がいること。

だからこそ今の言葉はすごくつらい。

追って来ないでしょ?
それが嵐の答えなんだよ。
守れてない全く守れていない嵐の答え

「五十嵐さん!!!!」

「へ?」

山本・・・くん?

「どうしたんですか?忘れ物ですか?」

ハァハァ・・・。

「ううん・・・帰る。家に・・・」

さっきから結構走っていたけど・・・山本くんも走ってたんだ。

「大丈夫ですか?」
「あ・・・うん」

「僕が側にいます」

優しいね山本くんはね





「山本くん、付き合おっか」




そうだよ。
嵐なんて忘れて付き合っちゃえ。
スキって言ってくれた人。
キンホルダーもはずさなくてよくなった。

「いいの!?」
「うん」

12月7日午前8:3

私は高校1年生で初めて彼氏と付き合い始めました。

「じゃあ・・・茜!学校、いこう?」
「ごめん、山本くん!私、今日は・・・用事が出来たから帰るね!またね」
「・・・?わかったよ。大好きだよ、茜」

『大好きだよ』
その言葉は今の私を少しは癒してくれただろう。

「・・・じゃあね!」

私は再び家に戻る。
親のいない家はこういうときは便利だということに初めて気がついた。

「た、ただいま」

と言っても誰も返事をしてくれないのにホッとしながらベッドに横になる。

付き合い始めた日は高校初のイジメの日・・・か。
あまり、嬉しくない。
それより、付き合って普通キャーとなるところが今は半分以上教室の自分の机や、私をターゲーットとしているイジメッ子の人たちの方が気になる。

父や母が絶対に入ってくることがない私の部屋は静かにさいしていれば
気づかれることがない。
靴を部屋に置いておけば両親は学校にいったと思うだろう。

「はぁ~疲れた。」
「本当に・・・。今日はどっちからお風呂入る?」
「2人で入ろう・・・疲れているのは一緒だ」

両親がかえって来た。
私は制服がシワになろうとも関係なく今は布団の中に潜り込む。
開けられてしまっても汚い部屋だと思えばいいのだから。

布団は暗く、息をするのも大変。

・・・携帯、携帯。
息をできる隙間を作りポケットから携帯を出す。
大好きな空を見るために。

でも、空をみる前に菜々からラインが来ていたことに気がついた。

菜々:今まで、茜が秘密にしていた事全部あいつらから聞かされちゃったわ。
   でも、言ったけどあたしはあいつらが間違ってると思ってるからさ、
   アンタをあたしは絶対に1人にしないよ!
   精神的に大丈夫になったらおいで。
   ラインでもいいから話そうよ!いつもどうりさ( ゚ー゚)( 。_。)ウンウン

私は、中学の頃と違うことに気がついた。
ターゲットは私のみ、イジメられた原因は男。
でも、
私には1人の仲間がいる、私のことを好きと言ってくれている彼氏がいる。

1人じゃないじゃん

茜:菜々、ありがとう。
  私、山本くんと付き合い始めたよ~
  こんなゴチャゴチャの時にアレだけどさ

菜々の既読は早かった。
時計を見ると朝礼の時間。
確かに、菜々は携帯をいじりすぎて相手にもされていないから返信が可能。

菜々:まぢか。
   付き合っちゃったの?森山わ?

当然、布団の中で暇な私も返信は早い。

茜:いいのいいの!嵐は、ただの幼馴染。
  ちょーっとかっこよくなったから私もいいなって思ってただけだもん
  ボロがでてたじゃんー?なんか
  『茜がイジメられていたっていう証拠はできたね~』って言ってたし

菜々の既読は早かった。
けど、返信は1分後にきた。

菜々:う・・ん。違う意味であたしは言ったと思うよ?
   これで、先生に証拠を出せる~みたいな

分かってる。それくらいめっちゃわかってる。

茜:うん。分かってるけど、今、理解してるんだもん
  あの時はネガティブにしかとらえられないもん

菜々:今、教室にいればよかったのにね。

へ?どういう事?
2枚、菜々からの画像が携帯に届いた。

!!

1枚はイジメッ子が私の机を片付けている写真。
少し、顔はいじけているように見えるが・・・泣いている子もいる。

もう1枚は嵐が泣いていた写真。
きっとコレは隠し撮りなんだろう。
嵐の顔はいまいち変なふうにうつっている。

菜々:森山は隠し撮りー。

当たったみたい。


菜々:山本?と付き合ったならさそれで茜が幸せになるならもちろん応援する
   けどさー


   自分の心に正直じゃないことが一番つらい事だからね



その通りでございます。
私は、嵐が好き。走りながら自覚した。
それなのに、山本くんと付き合ってる。
別れるの?・・・山本くんに失礼じゃないかな。
これこそ、男遊びじゃない?


山本くんを好きになればいいんだよ。


私はそう決心して静かに布団から出て普段着に着替え寝た。