タケシが来なくなって、1カ月が過ぎた。
1カ月の間に、俺らバスケ部は何気に頑張って県大会までの切符を手にした。
さらに、県大会では上位に入ることができた。
俺は、最高得点54点をたたき出し、高校の先生にスカウトまで来た。
県大会のつぎは、近くの県が集まって行う大会がある。

・・・それを勝ち進めば、俺たちは全国に行ける。


「先生、タケシは?」
「悪いが、今日も休みだ。何も知らなくて悪いな。」

チッ。
本当に何もしらねーのかよ、なんて思うのは担任だから。

「仙田のことは、他に聞け。私が出るべき幕ではない。」

・・・たまに変なことをいう先生。ちなみに、『幕』とつかうのがクセね。

「ふーん・・・じゃあ、他にあたろっかな。」
「うん、悪いな。お前、テストもう少しあるからな」

「うっす。」

テスト・・・か。
赤点とかとってる場合じゃないけど正直勉強している場合でもない。
・・・タケシに頼んでみるかな。

ここ1カ月、忙しかったからタケシの家にはいってなかった。

「うっし。」

そうときまれば、先生にはやく提出物を見てもらって、学校で宿題を終わらせる。・・・今日は、顧問がいないから部活は休みだしな。



「ターケシー、おーる?」

俺は、あの後さっさと家に帰りタケシの家まで来た。

「あ・・・あら、いらっしゃい、春輝君・・・」
「うっす!」

痩せたな・・・タケシのかあちゃん。
痩せた・・・いや、やつれた?

「タケシに話があるんですよ!いいっすか?」

俺は、そう言って玄関に入ろうとする。
本当はいつもこんなことにならないうちに『いらっしゃーい、入って入って』というタケシの母ちゃんだけど・・・。
だから、俺はいつもの癖で人の家だろうが勝手に一歩入れる。
まぁ、タケシ限定に近い。

「待って!」

「え?」

タケシの母ちゃんは、俺を家に入れてくれなかった。

「なんで!?いいじゃないっすか!ちらかってるんですか!?気にしませんから!入れて下さい。タケシに話があるんです」

「・・・春輝君、帰って・・・」

は?何言ってんだよ・・・。

「おばさん!」




「母さんっ!入れていいよ」



タケシの声だ!
・・・でも、声が通ってない・・・な。
気のせいか?

「タケシ・・・、ちょっとまっててくれない?春輝君」
「え・・・あ、はい」

そう言われて俺は数分間、玄関で待たされた。

「ごめんね~・・・、どうぞ」

そう言って少し元気のないおあばさんは俺をやっと家に入れてくれた。
靴・・・並べなくちゃ・・・。

「タケシ、布団に入ってるから・・・」
「・・・?はい?」

だから?
別に、そんなこという必要もないと思うけどな。

俺はタケシの家に何度も言ってるから本人並みにこの家の仕組みを知っている。この家は、タケシの母ちゃんの憧れの家である。

ちなみにタケシの部屋は2階、それは、タケシの母ちゃんが『子供の時くらい隠れて、悪い事してもいい、もちろん、警察に捕まるのはなし』という教えで2階・・・だそうだ。

階段・・・に、手すりがつけられていた。
それと、滑り止め。

・・・どうしたんだろう・・・?

「タケシ、入っていいか?」

という声を発すると同時に俺はノックする。
コンコンッ と。

「いいよ、」

即答。

「あざまーー・・・え?」

タケシの部屋はビックリするくらい綺麗だった。
いつも、汚いわけではない、違うんだ。
本も、教科書も、大好きな漫画も・・・全部なくなっていた。

部屋にあるのは何も上に置かれていない勉強机、それと布団。

「タケシ・・・部屋、掃除したのか?いくらなんでも、捨てすぎじゃないか?・・・受験だから?」

「ううん」

違うのか・・・なんで?


・・・いや、もうパズルは埋まった。

気づいていたんだ。
タケシの顔がだんだん青白くなって痩せていくところ。
そして、無理にひきつってよく笑う・・・と思えば次の日は全然笑わないとこ。
部活にも顔を出さなくなり、ついには学校まで。
俺に、大切にしていた沢山の漫画をくれて、勉強まで見てくれた。
・・・俺の将来の心配かな。
そして、階段にある手すり、滑り止め、前までなかったものが増えていた。

・・・ゴミ箱の中には薬のゴミがあった。

「・・・タケシ、お前・・・死ぬ・・・のか?」


「うん」

・・・悲しい事に俺の予感は的中。

「いつから、知ってたんだ?ソレ・・・死ぬこと」

俺は問う。
タケシは知っていたから何でもしてくれたのではないだろうか。

「・・・綾香と開かれる1週間前。結構前だね」
「そっか・・・」
「綾香には伝えたんだ。でも、お前には伝えれなかった」

・・・そういえば・・・なんか竹下さん言ってたな。
『勝てなかった』てきなこと。

「まぁ、寿命伝えられたけどそれより生きる気はしなかった。だから、俺は悔いの残らないようにお前に、お前を大切にした」

・・・大粒の涙が頬を伝う。
無言の俺に対してタケシは言う。

「俺は、お前が好きだからさっ!ありがとなっ!」

・・・遺言。
俺は、タケシの生きた証がほしかった。
でも、いっぱい持っていた。タケシが託した未来。
俺は・・・それを受け継がなければならない。
勉強だって、もうやり方は知ってる。
タケシは死ぬ前に俺に未来を預けていたんだ。
ずっと・・・。
俺は、気づかないふりをしてタケシを苦しませていた。

「タケシ・・・ごめんな・・・気づかなくて」

「は~?・・・気づかれたら、俺、マジで自殺してたぞ?生きる希望がなくなっちゃうだろーが、ばーかぁ」

元気なフリをするタケシ。

「いつ?いつ、天国に行くの?」

「・・・聞くの?」

「うん。」

「・・・あと3日だよ」

え?心臓が止まったかと思った。
3日?
あと、3日?

「ほーら、そういう顔すると思った~、言わなきゃよかった」

そう言って、タケシは体を起して壁を背もたれにする。

「・・・俺も、タケシに伝えたい。」

「は~?・・・うん、聞こうかな」

バカノリはやめたみたいで真面目になったタカシを見て俺は涙を流す。
もう、喋れない。
4日後には、タケシはいないかもしれない。
タケシに、助けられたことは沢山ある。
恋愛話を最初にしていたのもタケシ・・・俺は、あんま大したことじゃないけど。
タケシには勉強を教えてもらった。
タケシには人との接し方『さん』をつけないことをならった。

「俺、全国行くから・・・お前は天国でメガホン持って応援しろよ!」

「あ~あぁ」

記憶も、あやふやなのか、覚えてなさそうだ。

「思い出した!わりぃ・・な」

「んで、俺に勉強教えてくれてあんがとっ!恋愛、教えてくれてあんがとっ!人との接し方教えてくれてあんがとっ!・・・お前には、まだまだ伝えきれねーくらい恩があるのに、先にどっかいっちまったら俺はかえせねーな」

「あはははっ!泣けるー、じゃあ問題ー御恩と○○!漢字2つでこたえよっ!」

「奉公!って、クイズじゃねーんだよ!」

「あっれ~?ハル、泣いてない??ばーか」

うっるせーーと思うけど、俺は本当に泣き虫だな。
タケシは、自分が死ぬって言うのに全然平気そうだ。

「怖くないのか?」

「うん」

「なんで?」

「・・・大好きな漫画にさ『人はいつか死ぬ、でも思いをつないでいれば死なない』てきなこと書いてあるし、俺はまだ死なないよ。みんなの記憶から消された時、俺は死ぬ・・・から」

・・・それ・・・って

「だから・・・・・・・・・・」

沈黙

「・・・・・・・・・俺を、忘れなぃで・・・ください」

泣いているタケシ。
こんな弱ったタケシを俺は初めて見た。
バスケの試合で負けても、どんなことがあってもタケシは人前で泣くことはなかった。

けど、
やっぱり死ぬということは怖いことで・・・きっと、俺には全然分からない話。


「忘れるわけねーじゃん。ばっかじゃねー?」

俺がそういうとタケシは苦しそうにベッドから出た。
なんだ?

タケシは、机の前でとまり机の上においってあった鍵で引き出しを開けた。

「ん、やる」

そういってもらったのは 綺麗なパステルカラーのキンホルダー。

「・・・ハート?」
「うん、わりぃかよ。」
「・・・タケシの趣味?」

「ちげーよ。・・・それさぁ、お前が本気で好きになった子にあげろよ。」

「・・・えー、俺・・・一生できないよ」
「いや、できるよ。高校で、お前は一目ぼれする」
「はぁ?」

・・・意味わからん。
まぁ、もらっておこう。・・・形見となるのだから。

「はぁ・・・はぁ・・・」

口で呼吸をし始めたタケシ。

「どうした!大丈夫か?」
「ん・・・、はぁー・・・うん」

・・・でも、苦しそう。

うっし。
おれがタケシの母ちゃんを呼ぼうとしたときタケシは俺を止めた。

「あ、いいよっ!ハル、お前帰りな。もう少しでめしなんだ」

早いな、ご飯。

「あ・・・おっけ。また、明日」

がっこうにいたときとわざと同じように言う。

「うん、じゃあね!」

俺はその日、家に帰ってすぐに寝た。




タケシが病院に運ばれているとも知らずに・・・な。