「嵐?いる?茜だけど」

パタパタパタ

スリッパの音が近付いている。

がちゃ

「どうしたの?入る?」

「あ、うん。お邪魔する」
「おっけ、俺の部屋汚いけど許してね」
「え~、嵐が汚いって言うときは本当に汚いんだよね」

私は嵐の家に入る。
靴を脱ぎ、並べて自分の家と同じなのに他の人の家だと言うことを
壁の傷で改めて理解する。

「汚いよ、マジで」
「えー」
「昔さ、俺の部屋の掃除を俺と茜でやったよね」
「あぁ~、したした」

そして、嵐の部屋に入る。

・・・予想通り・・・いや、それ以上に散らかっていた。

雑誌や、ペットボトル、筆箱に授業で使っているノート。
ベッドの上には携帯、散らかった沢山の服。

「嵐・・・汚い」
「あぁ、俺も改めて思った」

ドコに座ればいいの・・・。
大事な話・・・なのに。

「茜、公園いこ」
「え?」

「俺らの思い出の・・・ね」

一緒に遊んだ。
思い出の・・・。

「うん、そうしよっか」

そうして、私達は家を出て思い出の沢山遊んだ公園へ向かった。

「ううううううううう」
「何、嵐?」
「いやー、気持ちいー」

「嵐、私ね素直に嵐みたいに出来ないよ」
「・・・」
「嵐が『ありがとう』とか言えても私には言えない。
 でも、大好きだよ・・・嵐の事。
 嵐がいれば私はすっごく幸せ。
 でも、コレをずっと言葉に出せって言われても私にはできないよ。」

「茜、俺もねスイッチ入れてるよ」
「え?」
「俺だって、好きな子の目の前で理性を保つことって難しいよ?
 だから、俺は俺なりにやっているけど・・・。
 茜も俺のマネしろーなんて言わないよ。でもね


  俺らは長年の付き合いでしょ?」

・・・そのとおりだ。
カレカノというのになったのはここ最近。
ちょくちょく、昔のことも話に出てくる。

「彼女ーとか彼氏ーっていう特別な名前が俺らには今ついてるけど、幼馴染には変わらないし。茜だって俺に言ってたでしょ?『幼馴染の彼氏』って」

嵐は、すごいな。
私の悩みなんてすぐに説得しちゃうんだもん。
嵐だけがスゴイ。

「茜、俺さ今茜が考えてること当てる」
「へ・・・」
「俺だけがすごい!っとか?」

・・・あたり。

「図星?」
「はい」
「いえーい。じゃあ、俺、茜の好きなといおうかな。
 茜がとにかく優しくて、周りに迷惑かけない為に自分の気持ちを言わない」

「違うっ」

「え・・・?」

「周りのことなんて、考えてない。・・・私は、さっきも言ったけど言えない」

「俺には、茜がそう見える。茜は可愛い。好きだから可愛く見える。でも、男子が苦手なのか、男子と茜の間には境界線がある。だから、山本が茜の事を好きって言った時も俺は有利だと思った。俺と茜には境界線なんて引かれてないもん」

嵐・・・。

「茜のコトは分かってるから。心配しないで・・・ね?」

「・・・それでも、私は・・・嵐に素直に何でも言いたいの。嵐が私ばっかに言ってても、嵐だって時には不安になるでしょ?」

「あっ」
「え?」

     雪だ。

いきなり・・・。
確かに・・・雪なんだけど・・・。

「ありがと。茜・・・」
「うん・・・。」

気まずい空気が流れている。
そう、感じるのは・・・私だけだといいと思う。
でも、関係ないんだ。私は言うんだ。幼馴染で心が通じ合ってるとか関係ない。今は、ただ正直に今、これからを話したい。

だって、嵐とずっと一緒にいたいもん。

「だからっ!」
「はいっ!」

「私は、まだ・・・上手く言えないかもしれないけど嵐は待っていてください。私はこのままでもいいって言われても嫌だ!私が・・・嫌だっ」

正直に・・・言うんだ。
息を吸う・・・。

「だって、私は嵐と・・・」

「待って!」

「え!?」

「ここからは俺が言いたい。俺も言わせてよ」

嵐も?何か言いたいの・・・?
ほら、ここの時点で分かってないから・・・。私達はまだ。

「確かに、茜は本当に今のままでもいいと思う・・・でも、茜自身が自分を変えたいっていうならもちろん反対はしないつもりでいるよ。」

「うん・・・」

『つもり』という言葉が入っている。
嵐はどうしてそんなに変わってほしくないのだろう。

「・・・本気で、俺は今の茜が好き。」

『好き』とかよく言えるよね・・・。
私、頑張らないと上手くは言えないけど・・・。

アレ?

嵐・・・よく見たらすごく顔も・・・耳も真っ赤・・・。
・・・もしかして・・・照れてるの?
今までも・・・ずっとこうやって言ってるけど・・・嵐も・・・私と同じ?

「俺だって、めっちゃ勇気いるんだよ?『好き』とか言うのさ・・・」

「やっぱり・・・。」

「えっ、わかってた!?」

・・・やば、つい口にでちゃった。
こうなったら言うしかない。

「今、気づいた。ごめん」

嵐はあっちを向く。

「恥ずかしい・・・。マジか。そんな真っ赤?」
「うん、赤面症?」


「ちげーよ・・・好きな人の前で赤面症なのはみんな一緒だろっ?」

さらに赤くなる顔・・・耳。

「ねぇ、赤くなりすぎて見てる私が怖い。」
「・・・うっせ。」


「私、変わりたいよ。やっぱり・・・」

「ん・・・俺が心配してるのは俺みたいに道をはずさないかっていうことなんだよね。チャラくなったりしたら・・・悲しいわ」

「なるわけないじゃんっ!バカ!」

「ホントかよ。」

「ホントだよ?」

「信じる。」

「えへへへ、ありがとう。  私も嵐がだーいすきだよっ」

きゃーーー。
顔、絶対スゴいことになってるよ!
きゃーーーーーーーーーー、もう・・・顔見れないからっ!

嵐もこんな感じ?えへへ。恥ずかしいね。すっごく・・・。

「茜・・・俺と同じ顔してる。」

「私も、そう思う・・・えへへ。恥ずかしいーー」

「俺もだよっ!いっつもね」

嵐はニコッとほほ笑む。
やっぱり、いった方がいいんだ。

「嵐は、不安だった?私は何も言わなくて」

めっちゃ、素直な疑問を私はぶつける。
少しドキドキしたのは、まだ慣れていないから。

「ん?・・・んー、茜・・・最近あんま喋らないしこういう感じの子って思ってたから別に何とも思わなかったよー。でも、今・・・こうして言ってくれるとめっちゃ嬉しいよ。」

こういう感じの子・・・って。もっと他の表現使えなかったわけ!?
それでも、嵐が言ってくれた『嬉しい』という言葉はそんなつまらない疑問なんか簡単に吹っ飛ばすことくらいの威力を持っている言葉だった。

「そっか。本当、嵐は優しいわ」

「はーい、ありがとねっ。でも、これ以上言わないでね・・・照れるし」

本当に、真っ赤な嵐をみて私は思わず吹く。

「プハハハッ、ダサすぎ。」

「うるせーなっ・・・遊ばない?まだ、夜までは時間あるし」

「そういえば、すぐに雪やんじゃったね」

「だな~。うっし、ブランコしよーぜっ」

「スカート見える。」

「・・・ん、ダメだな。」

見わたすと懐かしい公園。
子供の頃の映像が脳に流れている。

「ジャングルジム・・・とかどう?」

昔、多分一番使ってた場所。
一番、高くてすごく楽しくてまだ純粋で恋心とか知らなかった頃。

「お、いいじゃん!いこっか!」

「うんっ」

私達はジャングルジムへと走る。
この風が最高に気持ち良い事はきっとだれもが経験しているのではないだろうか。好きな人と走り、向かう先は一緒・・・

「ヤッベ」

結構・・・足の速い嵐が先にジャングルジムについた。
そして、何か悩んでいる表情をしている。

「ん?どうしたの・・・あっ」

ソレは、私達が身長が・・・いや、全てが成長したからあまりジャングルジムが高く感じられないこと、嵐に関してはもう上の棒に手が付いている。

「これじゃあ・・・つまんねぇな」

でも、思い出ってそんなものじゃない?

「そ?私はっ!のぼるけどっ!」

一段目の棒に足をかけてのぼる。
すごく懐かしい光景だ。

「ふーん。じゃあ、俺もっ」

嵐は、昔と同じように少し離れた所から助走をして飛んでのぼる。
小さい頃は全然、成功しなくて棒に頭をぶつけて泣いてたっけ。

「ほっ」

「わぁ」

上手く足がかかったのは・・・1段目。
これでは、助走をする意味がないのではないのだろうか。

「嵐!はやく」
「ほっ、ほっ」

私は一番高い所の棒に座る。
さすがに、自分の身体がこの一つの棒に支えられているから、怖い。

「なっつ!」

なっつ という表現は懐かしいという意味にあたる。

「ホントだねっ!」

2人とも、子供のころに戻ったみたいに笑ってただそこの景色を見て笑っていた。

冬は昼が短く夜が長い。
こんな冬、独特のドキドキも知らない、初々しいカップルにはまだ

冬の恋愛なんて分かっていなかった。

そして、雪が降る。