「お前らは、バカか!?この学校で授業に出ないということはこの学校に
 来た意味はない!というコトだぞ!!!!分かってるのか!?」

「「はい・・・」」

・・・2人で他愛もない幸せな時間を過ごした後は、お待ちかねの説教が私達を
待っていた。
学年主任の先生に怒られ・・・。

「とくに、森山!お前の外見には先生はとても失望しているんだぞ!なんだ、
 そのチャラチャラした格好は・・・森山は真面目だから良かったんだぞ」

ん?それは違うんじゃない?

「すんません」
「謝り方まで、変わってしまったのか。一体、お前に何があったんだ!?」
「言えませーん」

嵐も・・・テンションが上がっているのか、いつもより喋り方がチャラい。
でも、先生もおかしい。
嵐は・・・確かに変わった。テストの順位も落ちてしまった。
でも、人として何も悪いことはしていないのではないのだろうか。

「なんだ、五十嵐。何か言いたそうだな」
「へ!?」

考えすぎて、顔に出てしまったのだろうか・・・。

「え・・・いや・・・」

言ってしまったらどうなるんだろう・・・。
好奇心にあふれる子供・・・は私だ。はぁ~・・・。

「・・・文句か。俺がおかしい事を言ったか?」
「言ってませんね。俺が間違ってましたね。」

嵐はもう既にふてくされている。
さぁ、今から多分よくみると喧嘩になってくるのだろう。

「なんだ、森山。その態度は。」
「え?普通にいますけど・・・先生の方が背もたれによしかかって
 みっともないとおもいますし・・・シワシワのシャツきて・・・」
「い、今それは関係ないだろう!?」
「え?なら、俺の外見も今・・・関係ないですよね?」

さすが・・・天才。
もう先生から先手を奪った・・・。
『関係ない』と先生に言わせるためにあえて・・・、頭が良い。

「わ、わかった。仕方がないから今日はゆるしてやる。」
「ありがとうございます。」
「ぅん」

私の感謝の言葉よりも・・・嵐に口で負けたことがショックなのか元気がない。

職員室から出た私達は、教室へと向かう。

あ、私・・・今教室で1人なんだ。忘れてた・・・。
幸せ・・・というか嵐といると今が幸せに感じて他のことを忘れてしまう。

「今日はゆるすだってさ!ってことは今、行っても怒られないって・・・」
「あ~ら~し!先生があれで黙ってると思ってるの?怒ってたでしょ。」
「うん、でもあの人から関係のない事話したから俺もふっかけただけじゃん」

いや、もうその言葉が怖いよ。

「はいはい、ラブラブになったカップルさん。教室に行くよ?
 茜は、心配しないで森山。あたしが守るし。」
「え?・・・あ、おう」

どうやら、嵐も私がイジメられていたということを忘れていたようだ。

だよね~。

3人での他愛もない会話はほぼ嵐と菜々の口げんかでおもしろい。

「ってか、森山・・・キモイわ。女にされた態度し返すとか!」
「はぁ!?意味わかんねぇ―ンだけど」
「え?分かんないの!?それでも・・・天才!?」
「うっぜー」

どうやら、嵐は菜々の口には勝てない・・・ようだ。
先生にはあんなに堂々と言っていたのに菜々は関係のない話をしなくて、
思ったことをそのまま言ってしまうからだろうか・・・。
嵐が入る隙もないと解釈しても良いのだろうか。

そんな事を考えているうちに1年1組の表札が目に入った。

「あっ」

思わず、声を出した私に2人は・・・まるで獲物を狙っているかのような鋭い目で表札を見た。
そこまで・・・しなくても大丈夫だけどね。

「じゃ、大木。頼んだぞ」
「おう、任せろ。ニセ天才」
「・・・あえて、つっこまねーからな」

つっこまねーじゃなくてつっこめないんだろう。
嵐は、完全に菜々に口で負けた。

「茜、今は1人じゃないからね」
「・・・うん、心配しないで。イジメられてるってこともわすれてたんだよ」
「わぉ、スゴいじゃん。」

そんな笑える会話をしながら入ると私は目の前の光景に思わず動けなくなった。
黒板には おかえり、五十嵐さん。ごめんなさい、五十嵐さん という文字。
机はまるで新品のような輝きを見せていた。机に書かれた文字は消され、私の落書きまでもがドコに書いてあるかわからないくらい・・・。

「ごめんね。五十嵐さん!」

イジメの中心人物が頭を下げ私に謝罪。
正直、してあたりまえだけどこの光景は好きではない。

「いいよ。」

気にしないで・・・まではさすがに言えない。
イジメてもいいよ と言っているようにも聞こえるかもしれない。
変に解釈されたら困るから。

「え・・・いいの?」

私の返答に驚いた様子の中心人物は・・・泣きだした。

「ごめんなさい・・・あたいのストレスだったんだ・・・。
 テストの点数が悪くて・・・本当にごめん」

彼女は、自分の名前を あたい って呼ぶんだな・・・。
そんなことはどうでもいいんだけど。

「うん」

・・・ここから、どうやって会話を出すべきなのかな。
こんなふうに解決できるのはやっぱり名門校ならではのものだ。

「ごめんね、五十嵐さん・・・」
「うん、いいよ・・・もう、しないでね・・・」

その一言を言った後、私は綺麗になった席に腰を下ろした。
慣れている光景が、いつもより色づいているように感じるのは・・・

きっと、嵐と付き合ったから・・・。

時を過ごし、気づけば放課後。

「・・・ふぅー、」

ため息をつくと・・・

「五十嵐さん、じゃあね!!」

いじめの中心人物・・・。

「うんっ!またね!!」

私も明るく返す。
こうやって、元の関係に戻ると思ったから・・・。

「今日は、疲れましたな」

独り言をつぶやく。
もちろん、教室には誰もいない。
菜々でさえ。

ブブブ・・・

マナーモードの振動を肌が教えてくれた。
この短さならば・・・メールだろう。

開くと・・・菜々から。

菜々:3組来て―。

それだけ。
嵐のことかな・・・。

かばんにいそいで教科書や必要なものをつめて
教室から出た。

3組に行くと予想通り 菜々 嵐 が私を待っていた。

「茜、森山と帰りたいよね?」
「へ?」

いきなり、何を言い出すかと思えば・・・。

「付き合った初日はかえりたいよね!」
「え・・・あぁ・・・どうだろう」
「何!?その返事ぃいい!」

「茜、ごめんな。
 俺さ、あんま家で勉強しないんだよね。
 んで・・・今、宿題してたら一緒に帰れってピーピーうるせーわ」

・・・つまり、嵐は勉強したい・・・ということか。
なるほどなるほど。

「・・・森山、帰りたくないの?」

いつもより低い声で菜々が嵐に問う。

「いや、だから!帰りたいけど俺はここで勉強するから!」


「・・・じゃあ、待ってるよ」

「「!?」」

2人とも私の言葉に驚きすぎ。
だって、こうすれば嵐は学校で勉強ができる。
菜々は安心して帰れじゃん。
これが、いちばん平和でしょ?

「おおー了解。んじゃ、あたしも一緒にいてあげよーっと」
「へ!?」
「なぁ~によ。あたしがいたら邪魔って言うの~?」
「・・・いや、その・・・」
「うん。邪魔。」

嵐がハッキリ言った。
菜々は一度下を向いて・・・もう一度顔をあげる。
そして、私に言った。

「言っていいんだよ。あたしにさ。
 友達より、恋人・・・で いいんだよ。」

「菜々・・・、ありがとう」

さすが、菜々だ。
私の性格を読み取っていた。

菜々は『じゃーね』と言って3組から出ていった。

「・・・茜、何して待ってるつもり?あと・・・1時間はかかるよ」
「えっと・・・」

考えていなかった・・・。どうしよう・・・あっ

「私も、宿題しようかな!思ってたとこだしね」
「ん。」

・・・ん?待てよ。この場合、私はどこでやればいいの?
嵐は一番端の列で、前から4番目の後ろから2番目の席。
そして、縦、横、ななめ すべてがあいているこの状況の時。
どこに座ればいいのだろうか・・・。

・・・んー・・・。

「私・・・1組でやろっかな。迷惑かもしれないし。」
「・・・」

え、無視!?
っと思って嵐をみると歌を聞いていたようだ。
勉強・・・もともと、喋る気はないんだね・・・。

じゃあ、本当に迷惑かもね・・・。
横見たら、私が座ってたりしたら・・・。驚くじゃん。

・・・っていうか、私・・・横に座りたかったんだね・・・。

ネガティブな考えをしながら私は3組をでて1組に向かった。

1組はさっきと変わらない1人。

「ふぅー、宿題はなんだっけな。おっ、英語・・・やろやろ」

ブツブツという私の独り言。
最近、妙に独り言が多い。嫌だね・・・気持ち悪いわ。

ノートを開いて言われた宿題・・・大量の宿題をする。

カキカキ・・・
カキカキ・・・
カキカキ・・・

「あっ!」

ん?

「えっと・・・どうも。五十嵐さん」
「山本・・・くん」

さすがに気まずい。うう・・・。

「五十嵐さん・・・宿題?」
「え・・・まぁ、そうだね」
「ふーん」

ん?なんか気まずそうじゃないんですけど。

「五十嵐さん、アレ・・・森山と付き合ったんですよね」
「へ・・・あ、はい」
「おめでとう。それの為に俺は五十嵐さんと別れたんですからね」
「・・・ありがと」
「素直になれないと、ツラいことってけっこうありますよね・・・
 あの時ーちゃんと素直になれてたら変わってたのかなーみたいな」
「ありますね」

優しいな・・・山本くん。
でも、私はそんな優しい山本君を愛せなかった。

「俺、まだ好きですよ。五十嵐さんの事。」

「へ・・・」

「あっ、『へ』って言った。『へ』って言うときって驚いたりしている時
 ですよね!」
「あ・・・まぁ、そうですね」

「本気ですよ。フラれた今も」

・・・どうして?

「・・・」

「えっと・・いきなりですいません。」
「あ・・・はい」

「でも、言わせてもらいます」

「・・・はい」




「フラれたから、諦める・・・諦められるってこれが恋なんですか?
 フラれても、好きなんですよ。五十嵐さんの事。
 だって、俺・・・知ってましたよ。五十嵐さんと森山が両想いだって。
 それでも、俺はかけたんですよ。意地です!!!

 俺は諦めないんで・・・」

「ありがとう・・・でも・・・」
「ふ、フラないで!!・・・もう、帰るんで・・・。その・・・さよなら!」

「へぇええええ!?」

そう言って山本くんは走って・・・帰った。
数分後窓をみると校門から走っている男子が一名。
山本くんでは・・・?

『フラれたから、諦める・・・諦められるってこれが恋なんですか?
 フラれても、好きなんですよ』

確かに・・・そうだと思う。
フラれて『はい、そーですか』って簡単に言えないよね

・・・そうなんだ。

私・・・を、好きでいてくれる人が2人いるんだ・・・。