今は屋上で1人。
鍵を閉めているから、きっと誰にも邪魔されない。

まるで、世界に1人だけ・・・と錯覚してしまうくらい。

運動場では長距離の練習をしている姿があり、
音楽室からは美しいハーモニーが奏でられる。
教室からは喋り声、職員室からはテレビの音。

こうやっていると何も気にしていなかった音が耳に入ってくる。
決して、嫌なのではなくただボーとするのにちょうどいい。

さすがに人が沢山いるだけあって、音が止まない。


山本くんと別れて何分たっただろう。
山本くんはとっくに教室に戻っているだろう。

・・・山本くんは一歩進んだ。
その場で足踏みするのをやめて、泣くのをやめて前へ進んだ。

私は?

私は、前へ進むことが今できているのだろうか。
私は、今・・・何をしたい?


嵐。


会いたい・・・会いたいよ・・・。
ずっと、会いたかった人だよ。

なのに、どうして私は自ら嵐から逃げてしまったの?
嵐が守ってくれたのに私は・・・嵐を信じられなかった。

山本くんを傷つけ、すぐに山本くんの幸せを奪い・・・
それでも、まだ嵐に何も言うことができない・・・。

ブブブ・・・。

・・・携帯だ。
こんな時間に誰?今は、授業中でしょ?

菜々:ヒマ。

たった2文字。
それでも、なぜか心が温まった。

菜々:あたしも次から屋上行こうかな。
茜 :鍵かけてるんだけど・・・(笑)
   人が入って来ないように・・・
   菜々と間違えて違う人が入ってくるかもしれないんだけど・・・。
菜々:じゃあさ、暗証番号ね→0405
茜 :了解。ソレ聞くね(笑)
菜々:んじゃ、またねー!!!!!!!!


菜々が来る前に1人でやりたいことをしておきたい。
例えば・・・泣く?

いや、泣いた、十分泣いた。
だから、私自体の身体の水分がない・・・のどが渇く。

菜々:あたしともう・・・

私は画面についたラインの文字を途中まで見て
適当に「うん」とうっておいた。
菜々には悪いと思ったけど、今は空をみたい。
菜々からすれば、話を聞いていないって・・・言われるから。


ラインをみなかったことによってこれからが変わる ということもしらずに。
   
キンコーンカーンコン

気が付けば、授業終了のチャイム・・・のようだ。
そして本当に私は大の字で屋上で寝ていた。

こうしているのも悪くない・・・。

と思った瞬間

バタバタバタ

階段を駆け上がってくる・・・2人の足音?
あれ?菜々だけじゃ・・・もしかして・・・。

私は携帯のロックを解いて、菜々のラインを開いた。

菜々:あたしともう一人いいかな?ちなみに茜が今、会いたい人~ですっ

見とけばよかった。
それに対し、私は即答で「うん」・・・何してるんだか。

「茜ー0405!」
「・・・はぁーい」

カチャ

扉を開けた・・・。

髪の毛は今どきで、制服の着こなしも上手。
綺麗な輝く目で私と目が合っている少年・・・



会いたい。会いたい。

「・・・」

そう思っても、どう言葉をかければいいのかわからず
ただ、2人とも見つめあってるだけ。

そして、今にも目から涙がこぼれそうなのは・・・私だけ。

「ほらほら、早く入ってよ。森山!」
「・・・話がちげぇーじゃん」
「はいはい。アンタも暇だーって言ったからでしょ!いい場所でしょーが」
「授業中にラインしやがって、めんどくせーな。」
「はいはい。入れって言ってるでしょ!」

嵐と菜々の口げんか。
仲が良いと言うのは一目でわかる。

「・・・茜、暇だった?」

菜々の質問・・・。

「ううん、考えたいこともやりたいこともできたよ」
「そっか!やりたいことって何?」

空の・・・

「空の写真でしょ、今日めっちゃ綺麗じゃん」

・・・嵐。

「うん・・・」
「森山さ、ラインでアンタの話題をいつも出すのに今日出さなくてさ~
 だから、気にしてやったの。」
「・・・」
「茜、どうしたの?」

嵐の前で言わなきゃいけないの?
本音で・・・。



そうだよ。言わなきゃいけないよ。




涙がこぼれる。
今日の涙の量はスゴそう。

「今日、嵐に守ってもらわなくても平気って言った。 
 嵐を・・・嵐が嫌がることを言って・・・。
 冷たい視線で嵐を見た。」

「・・・でも、それは・・・付き合ったってことだよ。
 言わなくちゃいけなかったことだったよ。」

嵐が・・・私の言葉をカバーしている。
こんな時まで、優しい。

そう、そんな嵐が私は 好き なんだ。

「山本くんとは・・・もう別れた!」

さすがにこの一言には菜々も嵐も驚きを隠せない様子で・・・。

「え!?」

「ん!?」

・・・嵐の驚いたときの癖だ・・・『ん!?』懐かしい・・・。

「私は、嵐から逃げて・・・教室からも逃げた。
 そこが山本くんってだけ。
 山本くんのことを好きと思ったことなんてなくて・・・
 っていうか、ずっと錯覚してた。」

本音で。

「嵐のことが好きだから、嵐のことしか思い出せなくて!
 嵐に会いたいと思って・・・嵐の言葉がよみがえってきて!

・・・いっぱい涙がこぼれた」

・・・嵐?
泣いてるの?

「・・・私から、ヒドイ態度したのに嵐にされると悲しくなっていた私がきっ
 と一番ダメ。ごめん・・・嵐」

菜々はだんまり。
でも、ちゃんと聞いてくれているのは分かってる。
この言葉を聞いて最初に口を開いたのは・・・菜々だ。

「そっか。よく言ったじゃん。」

ほめた。褒め言葉ですね・・・。

「・・・茜、俺も後から考えれば茜が嫌な思いするのもあたり前だと思った。
 だから、茜が俺に冷たい態度をとって・・・俺も仕返しみたいにした。
 本当に・・・ごめん。」

「・・・いい、私が悪かったの」

「誰が好き?」

菜々が私に問いかける。
口角を上げ優しい目で私を見て・・・迷わず私は答える。