「そういえばあたし、水沢の携帯知らないよ?笑」


『え?なに?いるの?笑』


「いる!いるいる!」


必死だった。
突然のチャンスだと思った。
今しか、ないと思ったから。


『いるの?なに?笑』


「なんでそんなドSなんよ(笑)」


『ふーん、帰るか(笑)』


「教えてくれやんの?(笑)」


『ほら、はよしいよ、』



送信待機になった
彼の携帯。


赤外線受信に設定して
近づけた。


メモリに登録された
彼のアドレス。



「あ、ありがとう…。」


『帰るぞ(笑)』



地下鉄の駅まで
ふたりであるいた。


あたしには周りなんて
少しも見えてなかった。


揺れる地下鉄の中で
背の低いあたしは
掴まる場所がなくて


咄嗟に掴んだのは
彼の白いシャツの裾だった。



彼は一瞬驚いた顔をしたけれど
何も言わずにそのままにしてくれた。


それは、どういう意味だったのかな。