「今日はありがとうございました。」


「ただ話聞いてただけでなんもしてねーって。ま、次はいい恋愛できるといいな。そんなこと言えた義理じゃないけど。」

彼はそういって、愛想笑いをしてどこか悲しそうな目をしていた。


—先輩の経営してるホテルに住んでる彼は、先輩のなんなんだろう。先輩結婚してるし…

彼はそのあと無理やり作ったような笑顔を彼女にむけ「じゃあな」とドアを閉めた。


彼はふかふかのベッドの上に大の字になった。

「なんも言えなかったな。」

—諦めろとも、奪い取れとも。俺は麗子さんを諦められないし、だからといって奪えるわけでもないし。きっと彼女は諦めるんだろう。忘れるまでは辛いけど、きっとそのほうが痛みは少ないから。

—麗子さん、彼女と会わせることで俺に諦めることを望んだのか…そっか…



彼は自分の気持ちと彼女から突き付けられた現状を考えると虚しさでいっぱいになった。

「寝よ。」

彼女の気持ちは変わらないし、悲しい現実はいつも寝て翌朝リセットしようと思った。





ホテルをあとにした彼女は、さっきまでいたあかりの消えたスイートルームの窓を地上から見上げた。





—三浦さん…私今度はあなたを思い胸が痛いです。自分でもこの気持ちの切り替わりの速さにびっくりだ。