彼女は彼の腕の中でうずくまりながらスマホで時計を確認していた。この幸せな時間が終わりを告げる合図だ。


「咲壱(サイ)ちゃん、私そろそろ帰るね。」

彼女はそう言って、身だしなみを整えだした。彼の腕の中に空間ができる。胸がぽっかり空いた気持ちにもなる。

「これお小遣いね。」と彼女は机の上に10万円を置いた。



彼はベッドから立ち上がり、彼女の背中の後ろに立ち手をまわした。

「いらないっていつも言ってるでしょ。」

彼は悲しげな眼を伏せながら彼女の頭に自分の顔を寄せた。



「咲壱ちゃん。」

彼女は彼のほうを向き告げる。

「こういう形を取らないと、自分の気持ちを抑えることができないの、分かって?」

彼女は彼の頬に手を当て悲しげな笑みを浮かべた。



「なら…」

と彼が言いかけたと同時にそのあとの言葉をかき消すように彼女は彼の腕を払い、

「じゃあね」

と左手で手をふった。薬指の指輪がキラっと光る。






—麗子(レイコ)さん…意地悪だ。




彼女は彼に体だけの関係と言い聞かすように彼に毎回お金を払い、そのあとに鬱憤がたまっていたりする女性を彼にあてつける。

彼も彼女の思いをかき消すように他の女性の相手をする、そんな日々が続いていた。きっと今日も。