敬語はいらんからな、と前置きをされ渋々頷くと熙の質問責めが始まった。
熙「大体、何故長州の主の代わりなどやっておるのだ?本物は何処へ?」
『まあ、顔がそっくりなんで…それと、本物も一緒に御所に来てる。ちょっと待って。』
目を閉じ、集中して妖気の流れを探る。
あった。覚えのある妖気だ。
『ちょうど、御所の敷地の真ん中辺りにいる。何かを…見上げているような。』
熙「敷地の中心…見上げる…封印の祭壇か!」
『祭壇?』
驚く熙に首をかしげる。
なんだそれ?
何を封印しているんだ?
熙「邪神…。」
熙がぽつりと呟いた言葉に今度はこちらが驚く番だった。
『熙!詳しくその封印について教えてくれないか!』
熙「ふむ…本来ならば余り話せないが…恩人殿に免じて話そう。」
話はこうだった。
黒い巨大な鉄の船に乗った異人達は、日本に混乱をもたらした。
江戸幕府は恐れ慄き、対抗手段としてついには禁呪に手を出した。
それが邪神召喚。
邪神は腐っても神。
たかが人に御せるはずもなく、召喚してすぐ暴れまわった。
異国の邪神は人から人に乗り移り、偶然にも長州まで来て神を殺せる刀を持った澄野家をはじめ、人を殺し、魂を蓄え、日本の中心である御所まで乗り込んできた。
草薙の剣が喪われたその時、邪神を完全に倒すことはできず、四神の力、時の天皇ー熙の父親ーの命を持ってやっと封印した…らしい。
そうか。
那津は、恨みの根源で家族の仇である異人と幕府を徹底的に潰すために、邪神を使うのか。
僕達は身の内に草薙の剣がある。
もし何かあっても対処できると踏んでいるのだ。
間違っている。
江戸幕府は間違っていた。
だから悲劇が起こった。
その江戸幕府と那津は同じ事をしようとしている。
間違いを正すのに間違った方法を使うのは間違っている。
熙「封印の祭壇をわざわざ隠れ見に来たとなれば、長州の真の主殿は邪神を蘇らせようとしているとしか考えられぬ。吹悠殿の関係者といえどそれは許せない。アレは到底人の手には負えぬものだ。」
『…。』
知ってる。
それは僕らが一番よく知っている。
那津を止めなくては。