浪士達のいる所にずっといるのは気が滅入るので隣の静かな路地で仮面は念のため外さず、膝を抱えて耳を抑え目をつぶり完全に何も聞こえず何も見えない状態にした。
最近、目を瞑ると昔の失ったはずの記憶の断片が浮かぶようになった。
那津や幼馴染のお兄ちゃん達と暮らした何気ない幸せな日々。
潮干狩りとか凧揚げとか雪合戦の様子。林の中で探検ごっこもしたし、刀の稽古も僕と那津とお兄ちゃんの三人でしたっけ。
そして花見は…出来なかった。
なぜ平成に来たのかどうして記憶が消えたのかはわからない。でも、
あの時感じた絶望は今でも覚えてる。
那津に会ってここまで思い出したのだから、幼馴染のお兄ちゃんに会えば他の事も思い出せるのかもしれない。
那津にお兄ちゃんの事を聞いてみなくては。いや、その前に謝らなくては。少し今回は言い過ぎた。
帰らなきゃ。
耳から手を下ろし、伏せていた顔を少しあげると後何センチかで触れるのではないかと思う程近くに人の顔があった。
沖「こんばんはー。ここで何をやってるのかな?狐面鷹さん。もしかして隣の路地は君の仕業かな?屯所まで…行きましょう。」
それは二月前は毎日見て毎日聞いてた、会いたくない人の一人だった。
冷や汗が吹き出るが、この距離では逃げられない…。