4.
目を開けると、そこは
もとのアルとウルがいる世界だった。
あんなに、幸せな記憶を
どうして忘れていたのだろう。
思い出せてよかった。心からそう思う。
そして、アルとウルは黙っている。
きっと、おれの言葉を待っているんだ。
「もう一つ分かったことがある。」
アルとウルは黙って頷いた。
「千華は、おれの心の鍵だけど、
鍵は一つじゃなかったんだ。
今はまだ、理由は分からないけど
おれの心はまた閉ざされて、
鍵が必要になった。
もう一つの鍵は、アルとウルだ。
そして、
アルとウルは母親が持っていた人形で、
ここは…
おれの想像の世界。おれ、死んでからも
夢見てんだ。」
「ここは、あなたの中。」ウルが言った。
「ウル、私たちが教えてはいけない。」
「分かってる。わたしを信じて。」
アルは頷いた。
「私たちは隼人がいった通り、
隼人の母親が持っていた人形。
あなたが父親に
施設に連れて来られたとき、
上着と着替えのほかに
母親が大事にしていた
双子の小さな人形を持っていたの。
地獄のような日々のなかでその人形が、
あなたの心の支えだった。
あなたは施設で、
わたしと、アルと、自分を描いた。
そのとき、あなたの中の闇は、
あなたを支配した。
それからどうにか逃げるために
自分の中にもう一つの世界を作った。
そしてそこにアルとウルという、
私たちを住まわせた。
母親の事故、
父親の虐待、
そして、育児放棄
という自分の中の闇は
すべて切り捨てた、
幸せしかないこの世界、
あなたは現実より、
この夢の中の世界に生きるようになった。
私たちと自分を
スケッチブックに描いたとき
あなたはこの世界に入ることができる。
だから幼い隼人に、
私たちは何度も会ってるの。
私たちはあなたの幸せの象徴で、
私たちに母親を探してる。」
そうだ。妙に安心したり、
涙や声をどこかで知っていたのは
アルとウルに
お母さんをあてはめてたからだ。
そして、
記憶がすべてなくなっているのは
何かがきっかけで幸せだけの
世界を壊さないようにするためなんだ。
だけど、この世界の扉が、
スケッチブックの絵だったなんて。
でもそうだとしたら、おかしい。
スケッチブックの最後は
千華の絵で終わってた。
なのに、
どうしておれはいまここにいるんだ。
あの日以来、絵なんか描いてないはず…
そのとき、スウェットのポケットに
違和感を感じた。
恐る恐る手を入れると何かに触れた。
隼人は唾を飲み込んだ。紙だ。
折り畳んである。
ゆっくり広げて、
そこにかいてあるものを見たとき
手の震えが止まらなかった。
すべてボールペンでかかれている。
ところどころ破けていて、
線は震え、何度も何度もなぞってある。
涙を流していたのか、
にじんでいるところもあった。
異常とも思うそれは確かにあの絵だった。
それは施設で見た、
この世界への扉を描いているような、
丁寧な絵とは違い、何かに怯え、
この世界に今すぐ
逃げ込もうとしているような絵だった。
「これ、いつ描いた…?」
思い出せない。
どうしてもここだけ思い出せない。
「最後の質問をする。」
これで、すべてがつながるのだろうか。
「あなたは、だれですか?」
思い出したしたとき、
待っているのは幸せなのか、
それとも、
絶望なのか、
答えのでない疑問が消えずに、
ぐるぐると頭のなかを巡っていた。
目を開けると、そこは
もとのアルとウルがいる世界だった。
あんなに、幸せな記憶を
どうして忘れていたのだろう。
思い出せてよかった。心からそう思う。
そして、アルとウルは黙っている。
きっと、おれの言葉を待っているんだ。
「もう一つ分かったことがある。」
アルとウルは黙って頷いた。
「千華は、おれの心の鍵だけど、
鍵は一つじゃなかったんだ。
今はまだ、理由は分からないけど
おれの心はまた閉ざされて、
鍵が必要になった。
もう一つの鍵は、アルとウルだ。
そして、
アルとウルは母親が持っていた人形で、
ここは…
おれの想像の世界。おれ、死んでからも
夢見てんだ。」
「ここは、あなたの中。」ウルが言った。
「ウル、私たちが教えてはいけない。」
「分かってる。わたしを信じて。」
アルは頷いた。
「私たちは隼人がいった通り、
隼人の母親が持っていた人形。
あなたが父親に
施設に連れて来られたとき、
上着と着替えのほかに
母親が大事にしていた
双子の小さな人形を持っていたの。
地獄のような日々のなかでその人形が、
あなたの心の支えだった。
あなたは施設で、
わたしと、アルと、自分を描いた。
そのとき、あなたの中の闇は、
あなたを支配した。
それからどうにか逃げるために
自分の中にもう一つの世界を作った。
そしてそこにアルとウルという、
私たちを住まわせた。
母親の事故、
父親の虐待、
そして、育児放棄
という自分の中の闇は
すべて切り捨てた、
幸せしかないこの世界、
あなたは現実より、
この夢の中の世界に生きるようになった。
私たちと自分を
スケッチブックに描いたとき
あなたはこの世界に入ることができる。
だから幼い隼人に、
私たちは何度も会ってるの。
私たちはあなたの幸せの象徴で、
私たちに母親を探してる。」
そうだ。妙に安心したり、
涙や声をどこかで知っていたのは
アルとウルに
お母さんをあてはめてたからだ。
そして、
記憶がすべてなくなっているのは
何かがきっかけで幸せだけの
世界を壊さないようにするためなんだ。
だけど、この世界の扉が、
スケッチブックの絵だったなんて。
でもそうだとしたら、おかしい。
スケッチブックの最後は
千華の絵で終わってた。
なのに、
どうしておれはいまここにいるんだ。
あの日以来、絵なんか描いてないはず…
そのとき、スウェットのポケットに
違和感を感じた。
恐る恐る手を入れると何かに触れた。
隼人は唾を飲み込んだ。紙だ。
折り畳んである。
ゆっくり広げて、
そこにかいてあるものを見たとき
手の震えが止まらなかった。
すべてボールペンでかかれている。
ところどころ破けていて、
線は震え、何度も何度もなぞってある。
涙を流していたのか、
にじんでいるところもあった。
異常とも思うそれは確かにあの絵だった。
それは施設で見た、
この世界への扉を描いているような、
丁寧な絵とは違い、何かに怯え、
この世界に今すぐ
逃げ込もうとしているような絵だった。
「これ、いつ描いた…?」
思い出せない。
どうしてもここだけ思い出せない。
「最後の質問をする。」
これで、すべてがつながるのだろうか。
「あなたは、だれですか?」
思い出したしたとき、
待っているのは幸せなのか、
それとも、
絶望なのか、
答えのでない疑問が消えずに、
ぐるぐると頭のなかを巡っていた。