LONELY GUARDIAN―守り人は孤独と愛を歌う―



海牙がスポーツバッグを開けた。


ローラースケートを取り出して、革靴から履き替える。



理仁がキョトンとした。



「そんなもん履いて、どーすんの?」



「移動手段ですよ。今日は走る気分じゃないんでね、滑っていこうかと思います。ぼくが先行するから、ついて来てください」



海牙は革靴をスポーツバッグにしまい込んで、バッグを肩から斜めに掛けた。


ポケットからバイザーを出して装着する。



「え、ちょい待ち。海ちゃん、バイクの前を滑ってく気?」



「そのとおりですよ、リヒちゃん。ぼくの能力、披露します」




鈴蘭と師央にメットを渡した。


師央はすぐにかぶったが、鈴蘭は顎紐に、もたついている。


微妙に斜めになってるから、キャッチが留まらないんだ。


不器用な様子に、ため息が出る。


勉強はできるらしいが、要領は悪そうだ。


運動も苦手と言ってた気がする。



「じっとしてろ」



鈴蘭の頭にメットをかぶせ直す。顎紐を留めてやる。


首筋に触れないように気を付けた。でも、髪に触れてしまった。


うっかり鈴蘭の顔を見たら、頬が赤い。


オレにもそれがうつった。顔が熱い。




ひゅー、と口笛がハモった。


音のほうをにらむと、海牙と理仁だ。



「そういう仲だったんですか」



「見せつけてくれちゃって~」



師央がいそいそと理仁のマシンに近寄った。



「じゃ、理仁さんに乗せてもらいますね。鈴蘭さんは煥さんの後ろで」



「ちょ、ちょっと、師央くん!」



理仁がバイクのスタンドを蹴った。



「ふぅん、鈴蘭ちゃんはおれのほうがいい? おれにギューッとしがみついちゃう?」



「イヤです!」



「じゃ、あっきーにギューッとしててね~」



「えぇえぇっ!」



意識しちゃダメだ。走りに集中しよう。



「ぐずぐずするな。乗れ、鈴蘭」



でも、集中できるか?


いや、集中しろよ。事故るぞ、オレ。




act. 07:a complete ruler




海牙が先導する道は、人通りがなかった。

裏路地を選んで走っているらしい。

確かに、海牙は人に見られたくないだろう。

時速数十キロで疾走するローラースケーター。

一般的な感覚では、あり得ない存在だ。


オレとしても、人目がないのはありがたい。

緋炎【ひえん】や警察は避けたい。

連中に見付かったら、厄介だ。


やがて、広々とした邸宅の前に到着した。

県境の高原地帯だ。

まわりには人家も店もない。


「着きましたよ」


海牙は、さすがに軽く息を弾ませていた。

ローラースケートから革靴に履き替える。


そういえば、とオレは思い出した。


「方向音痴と言ってたが。

今日は迷ってなかったな」




海牙は、波打つ髪を撫でつけた。

苦笑いしている。


「さすがに、通学路では迷いませんね」


なるほど、確かに。

オレの家から、一旦、大都高校のそばまで行った。

そこから改めて、この邸宅へと向かった。

位置関係からすると、大回りになっている。


理仁【りひと】がメットを取った。


「ってことは?

このお屋敷が海ちゃんちってこと?」

「いえいえ、まさか。

ぼくはここに住ませてもらってるだけですよ。

総統の何番目かの持ち家でね。

お気に入りの別荘だそうです」

「ふぅん。

そういや、大都はほとんど全員が寮生だっけ?

海ちゃん、違うんだ?」

「縛られるのが苦手でね。

監獄ですよ、あの寮は」




海牙の案内で、バイクを駐車場に置いた。

黒服の守衛にメットを預ける。


普通だ、と感じた。

意識を研ぎ澄ませてみても、違和感はない。

危険を感じない。

それでも、オレは海牙に念を押した。


「信用していいんだな?」

「守衛さんのことだったら、どうぞ信用して。

父君の形見に傷が付かないよう、見張ってくれますよ」

「阿里海牙という人間のことは?

信用できるのか?」

「んー、まあ、そのへんは……。

個人の見解ってものがあるでしょうね」


理仁がやんわりと間に入ってきた。


「まずは話を聞かないとね~。

でしょ、海ちゃん?」


海牙は笑って、先に立って歩き出した。


「こっちへ、ついて来てください」




枯山水の庭を抜けていく。

西日を浴びた池が、オレンジ色にきらめいている。


松の木の陰から、不意に。

巨大な黒い犬が現れた。

ガッシリとデカい頭が、オレの胸の高さにある。

さすがに、オレでもギョッとした。

鈴蘭が、のどの奥で悲鳴をあげた。


黒い犬が口を開いた。

ゴツい牙と薄い舌を持つ口が、器用に動く。


「よぉ、おかえり、海牙。

友達でも連れて来たのか?」


しゃべった。

犬がしゃべった。

低い男の声で、普通にしゃべった。


聞き間違い?

じゃないよな。

鈴蘭も師央も理仁も、目を見張って固まっている。


海牙は平然としていた。


「ただいまです、アジュさん。

こちら、総統がお呼びの皆さんですよ」




アジュと呼ばれた犬が笑った。

犬の口から、普通の男の笑い声が出てきた。


「ああ、四獣珠の面々か。

おい、きみら、そう驚いた顔をするな。

おれも能力者だ。

これでも人間だよ」


師央が、恐る恐る進み出た。

犬の姿のアジュと、あまり目の高さが変わらない。


「変身、できるんですね?

人間の姿から、この大きな犬の姿に?」

「こういう家系でね。

預かってる宝珠の関係で、犬絡みのチカラを持ってる。

坊やは、何者だ?

おれを探ろうっていう波動を感じる」


理仁が茶々を入れた。


「師央が変身能力を習得したとしてもね~。

こーんな強そうなワンちゃんにはなれないよ。

チワワになっちゃうと思う」