オレと海牙は同時に跳び離れた。
オレは腰を沈める。
海牙は突っ立っているだけだ。
「何しにここへ来た?」
「煥くんたちと話をするために」
「どうやって来た?」
「ぼくは二輪車の免許を持ってないんです。この二本の脚で十分だからね」
海牙は、にっこりと笑った。
そして跳躍した。予備動作なしで、身長の倍以上の高さまで。
高すぎる。あり得ない。
空中で海牙が身を縮める。
落下が始まる。左脚を蹴り出しながら、オレのほうへと。
オレは、よけない。
勢いを受け流しながら、海牙の体を絡め取る。巻き込んで倒れる。
「つかまえたぜ」
馬乗りになる。
「なるほどね。能力を使わなくても、この強さ。度胸もある。きみが特別な人間なのが、よくわかるな」
「何だと?」
「話というのはね、能力者同士で手を組みたいっていう相談ですよ。ぼくと一緒に、ある場所へ来てほしい。話をさせてもらえますか?」
オレは海牙の襟首をつかんだ。
「あんたの話なんか聞かねえ。と言ったら?」
「そう言うと思ってたんです。だから、ちょっと脅迫してみようかと」
「脅迫?」
「ぼくには強いチカラがある。無理やり誘拐して協力させることもできる。それを理解してもらいたくてね」
海牙が再び、にっこりと笑った。
その瞬間、オレの体は宙に放り投げられていた。
act. 06:a cool-headed esper
オレは受け身を取って跳ね起きた。
海牙は、すでに兄貴に打ち掛かっている。繰り出す拳が速い。
上腕でガードした兄貴が体勢を崩す。
牛富さんが背後から海牙につかみかかる。
海牙はそっちを見もしない。ただ、正確な回し蹴り。
かすめただけで、大柄な牛富さんが吹っ飛ぶ。
オレは舌打ちと同時に地面を蹴った。
兄貴と雄をまとめて相手する海牙の足元を狙う。
「おっと」
海牙はオレの足払いをかわした。
また、あの高すぎる跳躍だ。雄の頭上を楽々と越えた。
海牙の着地点に亜美さんがいる。
亜美さんは伸縮式の警棒を伸ばした。一瞬、上段の構え。
繰り出される警棒は、剣道の技じゃない。乱戦向きの、軌道の読みづらい動きだ。
パシッ。
軽く鋭い音が、風にまぎれつつ響いた。海牙が亜美さんの手首をつかんでいる。
「女性とは思えない腕前です」
「ナメんなッ!」
手首をつかむ手をさらにつかんで、体当たりからの崩し技をかけようとして、亜美さんの体が逆に宙に浮く。
突っ込んでいく兄貴のほうへ投げ飛ばされる。
「乱暴をして、すみませんね」
海牙が笑った。
オレが仕掛ける。
短い助走。跳躍しつつハイキック。
海牙は体を沈めて攻撃をさばいた。
そのまま右手を軸に、両脚を蹴り上げる。直線的な軌道。
クロスさせた上腕に受ける。
一瞬、止まったように感じた。
ふわっと重心が消えた。体が宙に投げ出された。
蹴り飛ばされたわけじゃない。持ち上げられて放られた気がした。
空中で、自分の重心を取り戻す。宙返りして着地する。
海牙もまた、跳んで着地したところだ。
師央の真後ろだった。
海牙は左腕で、後ろから師央を抱えた。
右手の人差し指を、師央のこめかみに当てる。
「チェックメイト」
呆然としていた師央が、ハッとした。
「ど、どうして、こんな……」
海牙が歯を見せて笑った。優男の皮をかぶった猛獣だ。
「こんな状況になってるのか、ちょっと理解が追いつきませんか? 荒っぽいことをして、ごめんなさい。たまにこういうことをしたくなるもので」
兄貴が進み出る。オレと並んだ。
「わかった、おれたちの負けだ」
「兄貴!」
「まあ、正直なところ、本気ではないよ。本気を出す前に度肝を抜かれている。それに、ここは場所がよくない。親の墓をぶっ壊しそうで、暴れる気が起きない」
海牙がチラッと墓石を振り返った。
「なるほど、そうですね。墓前をけがしてしまって、申し訳ない。でも、ワクワクしましたよ。あなたたちの後を尾けるのも。こうして一戦交えるのも」
胸くそ悪い言い方だ。
オレは吐き捨てた。
「いい迷惑だ。あんた、その体術は何なんだ? 人間として、あり得ない」
海牙は師央をとらえたまま笑っている。
「あり得るんですよ? もともと人間は、体の使い方が下手なんです。無駄が多くてね。
物理学的に分析して無駄を省いて、潜在能力を限界まで引き出す。それだけで、見てのとおり。平均レベルの筋力のぼくが、超人になれるんです」
「物理学的に、分析?」
「種明かししましょうか? これがぼくの能力なんですよ。力学《physics》と名付けてます。
例えて言えば、ぼくの視界は数値と数式だらけなんです。対象物の質量、温度、動作、何もかも、ぼくは数値的に分析しながら見ています。分析をもとに自分から無駄を省くことも、トレーニングで可能になりました」
だから、なのか。
足音がない。
あの跳躍力を出せる。
完璧に攻撃を受け流せる。
人ひとり、軽く放り投げられる。
師央が海牙の左腕をつかんだ。
「その能力は、こういうこと、ですよね?」
「はい?」