トントントン。
突然、ドアがノックされてハッと我に返った。
咄嗟に先輩は私から離れ、私もドアの前から退く。
「笠原いるか?」
ノックの後、顔を覗かせたのは田中先生だった。
「ああ、落合もいたのか」
「はい…」
先生の顔が見れない。
大好きな先生が今目の前にいるのに。
入学して一カ月。
先生と仲良くなれるチャンスだっていうのに。
「落合?どうした?」
私がわざと視線を逸らすもんだから、異変に気付いた先生が私の顔を覗き込む。
手を伸ばせば触れられる距離。
心配気に眉尻を下げる先生に、胸が締め付けられる。
ああ、私。
やっぱり先生が好きです。
顔がカッコイイからじゃない。
その胸に染みるような温かい声に、私は恋に落ちたんです。
まだ顔も知らない先生を、好きになったんです。