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「茜、あーかーねー」


目の前で名前を呼ばれ、現実に引き戻される。
浩介が不思議そうな顔をしていた。
気づくと授業は終わっていて、俺は教科書を出したまま同じ姿勢で座っていた。


「何ぼーっとしてるの。」


「お前との出会いを思い出してたんだよ。」


「あー、あれ。」


浩介は楽しそうに微笑む。


「僕、あの優しい平手打ちで茜に一目惚れしたんだよね。」


「誤解を招くようなことを言うな。」


周りがざわついたので、俺は呆れながら叱咤した。


「だって、現に今親友だし。」


「なんでだろうな。」


「茜も僕が大好きだからでしょ。」


「…。」


嬉しそうに笑う彼に反論ができなくて、俺はそれに同意も反対もしなかった。


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