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「由宇っ」


携帯を閉じて小走りに近づく。
前方からやってくる人の傘と接触したが、気にしてられない。
彼女の目の前に立ち、紺色の傘を彼女のほうへ傾けた。


「こんにちわ。」


「なに、してるの。濡れるだろ。」


少し息を切らしながら、彼女に尋ねる。
彼女はにこりと笑ったまま、「濡れたかったの。」と言った。


「誰かに呆れられることをしたかったの。
そしたら雨が降ったから、傘を持ってても濡れてみたの。」


「由宇、なに…?」


「だって、笑われてればらくなんだもの。
そしたらあたしも笑えるのに、なんで、なんで誰の目にも映らないんだろう。
なんであたしじゃないんだろ…っ。」


「ゆ」


「なんで、あたしはあの人の目に映れなかったんだろ…」


「…。」


虚ろな目で、でも笑顔を貼り付けたまま彼女はそう言った。


「…由宇、」


「なんで、なんで……」


「由宇。」


抱き寄せた。
一瞬彼女はビクリと体を震わせたが、抵抗しなかった。
さしていた傘は開いたまま地面に落ちて、その中に水溜まりをつくる。


「ふいぃいっ……」


彼女は俺の腕の中で、ただ泣いていた。

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