私は次の停車駅で電車から降りた。

知らない駅名だったが、越してきてからの私の行動範囲は極めてせまい。

何せ移り住んで来てから1度も他の市へは出ていないのだ。

知らない駅名であることは、この妙な体験の中においては至極まともなことのように感じられた。


窓越しに見た通り、降りた地の気候は蒸し暑く、ジメジメとしていて蝉のうるさい鳴き声でより一層暑く感じられた。夏だ。

ここも海辺の町らしく、潮の香りがした。

海の近くで育った私にとって馴染みのある空気を感じ取って、ざわざわと気持ち悪くうごめく感情が少々ながら大人しくなる。