私は元来臆病者だ。
布団から手足が出ると何者かに掴まれるのではないかと、大人になった今でも手足は布団にしっかり収納している。
子どもの頃はもちろん夜中にトイレになど行けなかったし、夜にドアの隙間があろうものならそこから誰かが覗いているのではないかと震えた。
そういった”何か”が怖いのは私にとっていつものことだった。そして大概は一際怖がりな私の勘違いであった。
だからその時も、何かが怖くなり、早足が駆け足に変わった。
緩やかに曲線を描く防波堤の上を、私はなるべく早く駆けた。何かから逃げるように。
気がつくと、波の音も止み、世界から音が消えていた。
声も聞こえない、ただニコニコと笑う人々とすれ違う。
優しい無音の風景が流れていった。