「え……」


 そんな無表情の顔が近付いてきたかと思いきや、瑠珂くんの唇が、私の唇に押し当て……られ……た。


「っ、イヤ……!」


 反射的に瑠珂くんを押し退け、未だその感触が残る自分の唇を隠すように腕で覆う。

 今、自分の身に何が起こったのか、頭の整理が追い付かない。

 え?えっ?私、今……瑠珂くんにキスされた……の?え?急にそんな、どうしてっ?!

 押し退けられた瑠珂くんは何も言わないまま体勢を保ち、ジッと私の顔を見た。

 ……その顔は先程までの冷酷なものではなく、どこか悲しそうなものに見えて……私はなんて言葉をかけたらいいのか、分からなくなった。


「……瑞季」

「っ!」


 不意に、名前を呼ばれる。

 やっぱり、瑠珂くんだ。目の前にいる彼は、正真正銘、瑠珂くんなんだ。そのことに変わりはないのに……。


「瑞季……」


 私の知っている瑠珂くんじゃ……ない?


「みずきっ……」


 切なそうな表情を浮かべ、何度も私の名前を呼ぶ瑠珂くんは、今にも消えてしまいそうなほどに儚げに見えた。

 そんな瑠珂くんに、私は――。


「私は、ここにいるよ」


 ――そう、言っていた。