あの日と同じ。

椅子に腰掛けて、珈琲を飲みながら外を眺める。
タイルが敷き詰められた小さい広場に、軍の道を歩まんとする子供達。
制服を着た軍人が、列を作るよう促す。

妹の時と同じ。

後ろから5列目を見れば、緑のブレザーにグレーのチェックのスカート。あの日のままの妹を見つけた。

この日、なんで俺はお前に聞いてやらなかったんだろう。

お前の理由は、なんなのか?

一瞬のことだ。

一瞬にして俺を取り巻く世界は変わっていた。俺は砂漠の真ん中にいて、遠くに銃痕がたくさんあるボロボロのビルのような建物が見えて、激戦区であっただろうことが伺える。
俺は、砂漠の真ん中にいて、椅子に座っている。椅子は先ほどと変わらないマンモルシェのもの。
信じがたいが、椅子ごと何処か知らない土地に来てしまったのだろうか。だが、不思議と焦りはしなかった。
むしろ焦ったのは、先ほどガラス越しに見ていた子供達が、迷彩の軍服を着て小銃を構えてこちらを睨んでいる光景だった。
子供達の目に、俺は映っていない。各々の目に映っているのは、おそらくは各々の敵なのかもしれない。
子供達は、俺ではない何かに着剣済みの小銃を構える。
突撃するつもりだ。

俺は、危機感を感じて立ち上がろうとしたが、体が重く泥のようにその場から動けなかった。

かんべんしてくれよ。

そう思った矢先。
子供達は一斉に俺に向かってくる。俺に向かってくるというよりかは、さっきも言ったように見えない敵に突っ込んで行く感じだ。
俺には見えないが、各々に各々の敵が見えているんだろう。ただ、その中に一つだけ悲しいことに殺気を感じる。
明らかに俺に向けられている。明らかに俺に向かってきている。明らかに俺を向いている。そんな、殺気。凶暴な殺気。
俺は、この主をしっている。

やあ、妹よ。

ご機嫌よう。

こんなところで会いたくなかったよ。

言いたいことは沢山あったが、そもそも体が泥みたいになっているため、もちろん口が動かないし声も出ない。

妹はまっすぐこちらへ来て、俺を突き刺した。

声が聞こえる。

なんで、どめてくれなかった

そんな声が聞こえた気がした。