まるで、自分の中の3分の2以上の血液を抜き取られたような。当時の自分から、母を奪うというのはかなりの痛手だった。大袈裟な話、死に至るような痛さだった。親が自分の親ではなくなった気がして、帰って義父がいるだけで、自分の家ではない気がした。
安心する人、安心する場所、まるで全てを奪われたかのような虚無感。
俺には何も無いんだと思った。
目の前で仲良くされるのも、そもそも義父の存在が、俺にとっては毒でしかなかった。
そのうち、そもそも自分が存在していい場所なんてないんじゃないかという錯覚さえしてくる。
誰もそんなこと思っていないのは、理解しているのだが、不安で不満で不信で、そう考えてしまう脳が出来上がってしまっていたんだ。
今まで楽しかったことも、楽しめない程度には、俺の中の半分以上を毒されていた。

金も、安心出来る場所も人も、つても、こねもない。
そんな俺が、高校卒業後、親に頼らず、家を出て生きていくには、この選択しかなかった。
軍に行けば、衣食住に困ることはないし、給料ももらえる。
今思えば、最善で最悪な選択だったと思う。
ただ、あの頃の俺には天国に見えた。
家に帰って、毎日2人が仲良くしているのをみることはない。どんなに過酷でも、義父によって精神を毒されることはないのだ。ひたすらに、天国に見えた。あの頃の俺には。

その場所で、どん底にいると、隣の町がどんな過酷でもよく見えてしまう。俺みたいな人ってたくさんいるのかもしれない。

あの頃の俺には、隣の芝生が青く繁って見えたんだ。

結論として、

俺の理由は、

自分の家から逃げたい

ただ、それだけだった。