目の前には、少し洒落たコンクリートの建物。そして、喫茶店であるマンモルシェがある。
ここは何処かと見渡せば、遠くの方に高めのビルがポツポツと生えている。
俺は、この景色をしっている。水戸の美術館だ。美術館の奥には小規模なコンサートなどができそうな、小ホールがある。

俺はこの場所を、過去2回程訪れたことがある。
もちろん最初は俺の時、2度目は妹の時。
俺の時は、これから始まる生活に期待して会場へ。妹の時は、マンモルシェに引き籠り、結局は小ホールには行かなかった。
この時俺は、任期満了での退職が決まっていたし、新生活に胸を躍らせていたあの頃を思い出してモヤモヤした気分になりたくなかった。食堂で幾度か相見えたとろろわかめ。その、モヤモヤした気持ちを形容するなら、まさにとろろわかめのようなモヤモヤだと言える。
小ホールまで足を運ばなかった理由は、実はもう一つある。義父が付いてきたことだ。こちらのほうが大きな理由と言える。
俺は、義父が嫌いなのだ。苦手だとか、合わないだとか、曖昧な言葉なんて使ってやるものか。俺は、あいつが嫌いなんだ。
誠心誠意、俺は義父が嫌いなんだ。

あいつと同じ空気を吸って生きているなんて認めたくないし、周りからあいつと同族(家族)と思われることが、そもそも不満だし、一等嫌いだった。