「聴いてくれる方の心に染み込む、優しい演奏です。」

「今の私だと?」

「義務の様な…何かに取り憑かれているような演奏です。」

「取り憑かれてる…??」

「渚先輩の『御両親』でしょうか。」

「…貴方それふざけて言ってるの?」

「本気で言ってますよ。」

「貴方に私の何が分かるの!?

親を早くに亡くした私の悲しみが!!

ピアノを辞めるなと言われた私の苦労が!!

貴方に分かるはずないでしょ!?」

金切り声になりながら彼女は叫んだ。

それに対し、彼は『呆れる、同情する』などの事はせず

ただ頷いていた。

そんな彼がぽつりと言った。

「僕は先輩の抱えてるものが何かなんて、

全く知りませんし興味もありません。」

彼女は彼の言いたい事が理解出来なかった。

人に散々文句をつけておきながら、

文句の原因には興味がないというのだ。

「…貴方何のつもり?」

「後輩…いや、貴女のパートナーですよ。」

彼女は、なぜだか自分でも理解できないが、

自分を散々貶した彼を気に入った。

口角を少し上げながら彼女は言った

「気に入った。

伴奏の件、正式に受けることにするよ。

これから宜しくね、パートナー。」