ケータイを切り、朱羅に押し付けた。


「藍がそう言うならば仕方がない。…今夜も野宿か…。」


そう言えば。
夕べ、こいつはどこで寝たんだ?


「青田家の隣に、ちょうど良い空き地があり、そこの土管の中で眠るから…私は平気だ。」


ドラ○もんか?


「駅前にビジネスホテルがあるだろ。」


「未成年をいきなり泊めてくれないだろ…それに、お金がもったいない。」


はああ…そう来るか。
何だか、僕が悪者みたいじゃないか!



「分かったよ。…でも、お前の親はよく許したな。娘を一人、遠くへ寄越して、よくも平気でいられるな。」


うちの親もどうかしてるが、朱羅の親も、常識に欠けるな。


「一人じゃない。」


「え…?」


「箱入りの私が、こんな所まで一人で来られるわけないだろう。…実は、父も一緒だ。」


朱羅の父親が?

なぜ、父親がいて、まず挨拶に来ないんだ?


「うちの父は…普通と違うんだ。」


「違うって?意味が分からない。」


朱羅は、決意したように、背負っていたリュックを下ろすと、ジッパーを開けた。


「藍、驚かないでくれよ。…これが、うちの父の赤井紅太郎(こうたろう)だ。」


…は?
リュックに収まる父?


…って!!



「馬鹿にしてんのか?それ、狐の縫いぐるみじゃないか!」


もふもふの、北海道のお土産です、みたいな狐の縫いぐるみが出てきた。


しかし、次の瞬間、僕の常識が、根底から覆された。


「君が藍君か。ふむ。なかなかイケメンじゃないか。」


狐が…人語を喋った。


「朱羅、お前…。」


「ああ…。」


「腹話術、巧いな。」


「…。」